新世紀エヴァンゲリオン2 戦陣記

その後の戦陣記 (1)
32 今回は脱線。

 台風2号が近づく中、俺達の岡本、および俺達の永野と芝村は3人、大声で天気を罵りながら雨風に打たれて歩いていた。

 3人で歩くのは当然かつ不本意ながら、3人以外に飲む相手がいないのである。台風が迫る中で飲みに行くのは馬鹿じゃないのかと岡本が叫ぶ。

 我は酒なしで生きる方が愚かだこのすっとこどっこいと叫び返した。
というか、大声でしゃべらないと風圧で何いってるのか分からない。

芝村:「この雨が酒だったら言うことないのに」
岡本:「それ以上言うと同意しそうだから黙れ」

永野:「どの店にしますか」
 永野は端から馬鹿には付き合いきれんという感じであった。
 この人物、ノリが悪い。が、しかし、この状況でどこでもいいから雨風しのげる場所がいいと言わないあたり、立派な人物かもしれなかった。

芝村:「当然ガーナ料理ですよ。いや、タイ料理でもいい」
岡本:「いやだ。俺は香草は嫌いだ。ついでに虫も駄目だ」
芝村:「目つぶって食えばいいんですよ」
岡本:「やっぱり虫のほうか!」
*)芝村注釈:すべては岡本さんの被害妄想であり、ガーナ料理は美味である。タイ料理もうまい。香草は入ってるけど。

永野:「ほんとにいやがらせのことになるとめちゃくちゃ熱心ですよね」
岡本:「まったくだ」
芝村:「岡本さん、生き方変えた方がいいんじゃないですか」

 雨の降りしきる夜の路上で我が岡本に首を締められている間に、永野は偵察に出た。ほどなく、3人で普通っぽい居酒屋に行く。

芝村:「じゃあ、エヴァのうちあげを記念して」
永野:「俺は関係してないじゃないですか」
芝村:「ではガンパレの打ち上げ第266章で」
岡本:「お前がいかに適当な人生送ってるのか、なんとなく今分かった」
芝村:「気のせいでしょう。俺は真面目と正直の間に生まれた3人兄弟の次男坊ですよ」
永野:「悪魔と悪霊の間に生まれたんでしょうが」
岡本:「永野さんとは気があうような気がしてきました」

 我々3人はまったく暖かみのない笑顔をそれぞれ浮かべると、酒を飲み始めた。

 30分後、3人で4リットルを撃破して、我々はまた伝説の戦士であることを示した。
 まだ誰も酔っていない。というか、アルコールが足りなくて手が震えそうである。

芝村:「アメリカはどうですか」 
永野:「駄目ですね。日本製はほとんど全滅ですよ」
岡本:「国内は**は面白いが、売上がつらい」
 岡本はいくつかの他社製品をほめた後、もっと売れるべきだと言った。いいゲームが売れないのが悲しいと。
芝村:「若手がデビューする確率が目だって下がっています。10年前のファミ通と今のファミ通のインタビュー記事の面々や発言内容の一致率は70%を越えています」
岡本:「素直に顔触れが変わらないと言え」
芝村:「それが悪いと言ってるんじゃないんですよ。問題は増えてないことなんです」

 静かになる場。

芝村:「ほぼ予想どおりの展開ですな。多分、時間の問題で同じことを言い始める奴が増えますよ」

 突然3人乾杯。それぞれ何考えているかは不明。
 ちなみに我は岡本さん家に帰ったら奥さんに怒られるんだろうなあ。なむー。
'31' 2004.6.1.Tue. 



戦陣記(30)
31 チーム
 ゲームと言うものは、一人の人間が作るものではない。
今回の戦陣記は、チーム全体の話をしたいと思う。

 エヴァンゲリオン2プロジェクトでは総計百名を超える参加者がいる。
一人たりとも欠けてはゲームは作れなかったろうし、売ることも知られることもなかったろう。
 私はチームの一員であったことを誇りに思う。そのお礼に代えての、簡単な紹介である。

○チームの中でも第一に紹介したいと思うのは、バンダイ営業の皆さんである。
客や販売店に一番近い彼らこそはプロジェクトの足腰であり、プロジェクトの根幹を支えるものである。
いずれ、営業や広報部門と組んだ形(意見を集める)でゲームを作りたいものである。そうすれば、もっと顧客の意見に根ざしたプロジェクトが出来るのではないかと思う。

○次にご紹介したいのは、ガイナックスの面々でる。わけても佐藤氏には影に日向にご尽力いただいた。
はっきり言ってしまえば彼の協力と好意なくては本プロジェクトは途中で頓挫していたと思う。その意味では、彼は今回のプロジェクトの母(男性だが)とも言える。当たり前といえば当たり前だが、ガイナックス抜きでエヴァのゲームなど作れるわけもないのである。
 我々アルファ・システムが彼から学んだ事は、人の好意を獲得すれば何事もやりやりやすくなると言うことである。(それぐらい、各方面で彼の好意に助けられた)人の好意を獲得できるような人間や会社になりたいものである。

○バンダイ青山氏 プロジェクト半ばで部署を移られたが、俺達の岡本氏の上司として、プロジェクト全体の防波堤として奮戦された。部署異動後も最後の最後まで尽力いただいた。管理職の鑑であり、会社人として尊敬する。そして深く感謝するとともに、色々ご迷惑かけたことをお詫びするものである。
お礼は酒で。

○あまり知られていないが、角川書店の皆様にも助けられた。宣伝面の援護射撃はすさまじく、この業界はつくづく数字では動かないところだと痛感した。彼らは原作時代に一緒にやったということを主たる理由として参戦した。

以上。
 ゲーム稼業をやっていて心から良かったと思うのは、上記、揃いも揃って頭の悪い皆さんの献身と努力を肌に感じた時である。およびかわいいファンレターを貰った時である。
長年馬鹿やってて良かったなあ、岡本さん、社長。


 え、庵野監督や俺達の岡本、現場スタッフが入ってないって?
たまにはいいでしょう。そういうのを出さない、こういうスタッフ紹介も。
'30' 2004.4.27.Tue. 



戦陣記(29)
30 エヴァンゲリオンの空間(2)
再編成した現状(当時):
 エヴァンゲリオンは色々な因子がつくった物である。
 同時に、全員が満足しているとは言えないものである。
それは色々な因子がそれぞれ正しいながら、背反を起こしているせいである。

 大目的が同じ皆それぞれが、それぞれの正しいことを言う。
だが、それが一つの答えとして完結したとき、それは一部の正しいを排除する。

 真に全員を満足させることは、今後何年も出来はしないだろうが、そのための道筋を作りたい、と思った。

 論理展開をやり直し、今度こそ正しいと思われる手法を編み出す。
我は中野坂上のビルに登った折、岡本氏に論理の歌を歌ってみせた。

 エヴァンゲリオンは色々な因子がつくった物である。
 同時に、全員が満足しているとは言えないものである。
それは色々な因子がそれぞれ正しいながら、背反を起こしているせいである。
だが、それが一つの答えとして完結したとき、それは一部の正しいを排除する。

 全員が満足しうるエヴァンゲリオンは、形として存在し得ない。確定状態になったときに何かを犠牲にする(背反する一部を切り捨てる)ためである。

 ゆえに我思う。万民の正解たるエヴァンゲリオンは空間である。

回答:
 製品はエヴァンゲリオンとなりえる色々な因子を、そのままの形でパッケージする。
同時に、可能な限り、多くの人々が満足しうる空間的ひろがりを持つ。

 製品はエヴァンゲリオンなのではなく、エヴァンゲリオンになりえる可能性を持つおもちゃ箱である。当時の、あのときに参加した人々が、再度参加できる空間こそがエヴァンゲリオンである。答えはいくつもある。それを一つに決めようとしていたのが、我らと先人の失敗である。

 我はエヴァンゲリオンの空間を設計するをもって全員への回答とする。

 岡本氏は腕を組んだまま椅子からひっくり返り、ひっくり返ったまま、さっさと熊本に帰って、そのわけの分からんものを作って来てくださいよと言った。

「そうします。ああそれと」
「予算ですか、期間ですか?」
 岡本はリアリストだった。

 我は笑うと、リタンダンシーがいると言った。
「いえ、空間に終わりがあると、この解ではいかんのですよ。だから私は、終わりをなくしたい。未来への広がりを持ちえる構造にしましょう」

 岡本は笑ったようだった。
「まあ、よく分かりませんがやってください。責任は俺達以外の誰かにおしつけますよ」
 岡本は真のリアリストだった。そして言った。
「そしてタイトルは、みんなのエヴァンゲリオンだ」
'29' 2004.3.4.Thu. 



 



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