新世紀エヴァンゲリオン2 戦陣記

戦陣記(26)
27 庵野監督(1)
 世の中というものは、複雑である。
 複雑だから、単純ではない。だが人間は物事を単純化しようとする。
それは人間の能力の限界故である。

 今回は複雑な話をしたい。話が複雑なのではなく、複雑の話である。

 エヴァンゲリオンという原作を詳細に調べていくと、時々、面白いものが見えてくる。
 ノイズ、つまり不連続なポイントである。ここでは庵野監督やそれ以外のスタッフの考え方とは外れた事柄をいう。
 例えば原作で有名なシーンで言えば、「貴方は死なないわ、私が守るもの」というレイの台詞がある。これが、非常にあやしい。かき集めるだけかき集めた資料を基にプロファイリングしても、前後の思考状況から考えてそういう風に思考が行く理由が不明である。
 それまで動きのある回が多かったのに、急に止めカットが増えたのもおかしい。

 こんな風にして、我は庵野思考をモデリングするために調べたが、原理的に見て予測不能な演出箇所が2520箇所あった。
 この2520個はなぜ存在するのか、我は直接本人に尋ねることにした。つまりは庵野監督である。こうして我は、東京に飛んだ。プロデューサーである岡本氏と合流し、がイナックスをたずねたのである。当時の庵野監督に一番近いのは今の庵野監督であるという考え方である。

 途中、日本語をしゃべれ、宇宙語禁止、数式と数字、論理を歌うのはやめろなどと、よく分からない注意を受けて庵野さんにお会いする。

 2520のうち、役半分の1400がカバーされれば、とりあえず一致率的にはいい線いくだろう、と考えていた。

 雑談から開始。我は会話に論理トラップを張り巡らし、思考範囲を壁を作って封じ、狭めて、思考動向を追い始めた。
 庵野氏は(性格はさておき)おそらくゲーマーになれば伝説級のスーパーエースになれたろうと思われる驚異的なパターン認識力と、クリエイターと呼ばれる人種だけが持つ、独特の関連付け(これを発想力という)を保有しており、瞬く間に論理トラップを対処しはじめた。

 我が仕掛けたトラップは7つ。人間の処理限界ぎりぎりでる。

第一論理トラップ 偽:芝村は設定を尋ねて来る。
第二論理トラップ 偽:芝村は数学的人間である。
第三論理トラップ 偽:今の庵野監督の考えが知りたい。
(略)
第7論理トラップ 偽:エヴァンゲリオンの話を芝村に聞かせる必要がある。

 庵野監督が面食らったのはほぼ20秒、発汗なし。実はこれだけでも結構すごい。
 この人物はバッドな環境での粘りが強いと、人物像を修正する。我はもっと、繊細で心が折れやすいと思っていた。この人は硬すぎるほど硬い。タングステンの弾芯入りの戦車砲弾だ。
 対応パターンを切り替えて話すまでのタイムラグ、応答能力も優秀。二度同じ話をすることもなく、完璧に意図を捕らえているが自分を失うこともない。
 国家を罵倒しながら最後の最後まで勇敢に戦って名誉の戦死を遂げる少佐という感じだな、と思う。いや、庵野さんは海軍だから、駆逐艦の艦長か。

 2520箇所の問題も解決した。現場の能力に応じて彼は作り方を変えていたのである。
 なるほど。なるほど。

 我は庵野さんに敬意を払うことにした。
ただ漫然と生きているだけでこういう応答能力は得られない。
尊敬に値するゲームの積み重ねの結果、今の庵野さんがいるのだろうと分析する。

 我は情報をあてにしない。ゆえに他の全ては信用するに値しないが、この反応は本物だ、と考える。情報は信頼性をもった。
 人間はどれだけでも嘘をつけるが、身に付いた立ち居振る舞いと土壇場の動きはどうにもごまかせない。この人物は尊敬に値する。

 あのお人は海軍さんだが、精神は機甲兵だな、軍曹。と帰りに岡本氏に言うと
「あんたがそれだけ人を誉めたところは今だかつて見たことないすけどね。……俺が、軍曹とはどういうことだ。ゴルディオンハンマーでぶっ叩くぞ、腐れ宇宙人」
と言われた。
'26' 2004.2.12.Thu. 

ALL VIEW / TITLE / SEARCH