「俺は納得してねぇぞ!」
玖珂は叫んだ。 叫びは光のようだった。
「俺が納得してねえことを、誰がやろうと見過ごせるか! それが本気だろうが!」
玖珂は、どんどん強くなるようだった。
傷を負うごとに学習しては、その動きを速くする。
絶対にさばけないと思った攻撃をあざやかに避け、トラップボムで脚の一本をふっ飛ばした。
「無駄よ。それくらいでは私は死なない。勝てると思ってるの?」
「勝つか負けるか知ったことか。俺の勝手だ。お前はムカツクからふっとばす!これは俺の戦いだ!」
「そんな動機でやられたら、たまらないわね」
怜悧な笑い声をあげ、大蜘蛛についた女の顔は言った。
「さあ、たのしませなさい!」
一斉に吐き出される何万の針のようなものが、不意に叩き落とされた。
「敵はコータローさんだけではありませんよ」
「まったくだ」
仁王剣と雷球が、叩き込まれる。
「いつも通り作戦があるんだろう。坊や」
「時間は稼ぎます。コータローさん」
「へっ。すまねえな、親父ズ」
「ほっとけ」「ほっといてください」
玖珂は怪我だらけになりながら少しだけ微笑むと、顔をあげた。
「ふみこたん、ふとくてでかいのたのむ。俺の後ろに」
「このエロガキが」
「それしかねえんだよ」
「そう、じゃあ、後でブタのように泣いて懇願なさい。許してくれと」
「考えとくよ」
ふみこは笑うと手を組んで呪文を唱えあげた。
衛星レーザーが降り注ぐ中、炎が一斉に燃え上がる。
「我は呼ぶ、地獄の炎!」
炎が走り、爆発が起きる。一瞬の無風。
「それぐらいの火力で私に勝てて?」
「まったくだ」
遅れて怒涛の爆風がせまる。
玖珂は背中で爆風を受け止めると、そのまま押されて恐ろしい勢いで走り出した。
小夜をかばっては抱きしめる。走る背中に、いくつもの破片が刺さった。
「言い忘れていたことがある。こいつは俺の戦いだ だがな」
この一撃だけは、世界のためだ!
玖珂は最後のトラップボムを爆破させると、さらに爆風を利用して前に飛んだ。
一瞬だけ人は、空を飛んだ。翼もなく。
「いけ」
空中で小夜を離すと、玖珂は笑って落ちていった。
すべてはただこれのための伏線であった。
小夜は腕を可憐に振ると光の鴉の名を呼んだ。
「ヤタ!」
怪鳥が叫ぶ。翼が青い光の刃になって小夜のまわりを回った。
「今になってやっと分かった。 お前を倒すのが、誰かということを」
小夜は空中で髪を揺らしながら蜘蛛に言った。
「それは、明日よ。明日はお前に汚されることを望んでいない」
「沈みなさい。あしきゆめよ」
光の鴉の翼が、女の顔をずたずたに切り刻んだ。
爆発が、起きる。 |