玖珂は時々夢を見るときがある。
ひどくはにかみやの娘が、自分に微笑んでくる夢だ。
玖珂も女は嫌いではない。どう扱って良いか分からないだけの話である。
夢の中での玖珂は、いつもうまくいっている。
どうやったんだ、教えてくれ。夢の中の自分にいいたいときもあるが、どういうわけか夢を見ているときはそのことを忘れているのだった。
夢の中の娘は、今やあられもない格好をして玖珂に顔を近づけていた。
はにかみやがそんなことするのかと思わなくもないが、まあ十五の少年の頭の中身としては妥当な内容とも言える。
右手が、無意識に剣鈴をもとめて動いていた。
次の瞬間悲しそうな白にして白亜の顔が浮かんだ。万の色旗が立つ戦場での再会だった。
「お前もそうなのか」
「オゼットとあまり変らない、幼い方だ。楽しいことがあっても良いと思う」
「この変態め。第7世界に落ちろ」
「はあ?」
青にして群青ならぬ玖珂光太郎は目を見開いた。机に突っ伏したまま、その頭を教師の拳で抑えられていた。
「はぁ? じゃないだろう玖珂光太郎」
クラス中が笑いに包まれた。 何人かの女子生徒は、あからさまな好意で玖珂の幼さが残る顔を見ようと身をひねっていた。
「よお、文ちゃん」
「先生だ」
「よお、文ちゃん先生」
教師は笑った。 学ランを着た玖珂の上から下を見る。背、のびやがったなこいつ。もうチビじゃねえか。これだから教師はやめれねえやと考えた。
「お前のそう言うところ、俺は大好きだ。この際だから進級なんかせんで留年しろ、留年。来年も俺が面倒見てやるぞ。いや、再来週からの夏休みで補習と言うのもある」
複雑な顔をする玖珂を、教師は嬉しそうに笑った。
「いやだったら授業を聞けや。おお、時間だ。今終ってないとバスが混むからな。今日はここまでだ、ホームルームするぞ」 |