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<ソックスハンター番外編>
 

「裏切りましたね! タイガァ!」
 岩田は次の瞬間、遠坂の本気パンチをくらって、光る液体を飛ばしながら飛んで行った。

 飛んでいく岩田の軌跡を目で追って、肩を軽くすくませた後、遠坂を見た。
「おいおい、タイガァ、そりゃないよ。」
「私を魔法瓶のような名前で呼ぶな!」
遠坂は、上から降ってきた金ダライを、天に向けて撃った拳銃で跳ね飛ばすと、
そのまま上半身ひねりからGKKW(キック)で滝川をゴーグルごとふっ飛ばした。

「僕は…真実の愛に目覚めたのだ。」
遠坂は、目を回して気絶した田辺をきつく抱きしめて
ほどけた青い髪に、愛しそうにふれた。

 それを笑う中村。
懐から出した善行の靴下を嗅いで、ガクガク首を振る。
「…笑止。今更どれだけ生身の女に恋しようと、タイガーは魔法瓶が炊飯ジャー。」
「いいえ、違うわ!」
「なにぃ!」
 公園の繁みの中から、次々と現われる女子高生。全員がアサルトライフルを持っていた。

中村を包囲して、構える。
「私たち風紀委員は、遠坂くんと田辺さんの公式カップルを推奨します!」
「…そうか、速水親衛隊だな。」
 女子高生達の顔が、一斉に赤くなった。

「いいえ。我々の厚志様は関係ないわ!ただ瀬戸口師匠に買収されただけよ。我々の厚志様のふりふりエプロン仕様の生写真で」
「そう!」

 一斉に拳を握って返事した女子高生達に、中村は不敵に笑ってみせた。
「瀬戸口、あのロ○コンめ…Hな雰囲気を3回くらい邪魔されたくらいで…だが!」
中村は、懐から伝説の一年靴下を取り出すと、自らの鼻と口に当てた。
 
 
 

爆発。
 
 
 

  裏マーケット。
白すぎる照明に照らされて、裏マーケットの親父は、口にくわえた煙草から、
白く細い煙をたなびかせた。

 味のれんの親父が腕を組んで神経質そうに握った刺し身包丁を弄んでいる。

「中村が捕まったらしい。」
「どぎゃんすっとね。」
「現役復帰するしかないだろうな。」

 裏マーケット親父と味のれん親父の視線が、同じ方をみる。

一人暗闇から見える、足。
「ミスター。」
「それは本気なのか。」

闇から、かなり横に広がった暑苦しい顔が浮かび上がる。
光と影のコントラストが白い軍服を映した。それは準竜師。
「私自らが出よう。」
裏マーケットの親父は、一度鼻の穴が大きく広がるほど息を吸うと、
白い煙とともに一気に吐き出した。
「ソックスハンターは、年寄りにつとまるほど、やわな仕事じゃない。」

 味のれん親父が、三本の包丁でジャグラーする。
「そうね。」
 
 

 準竜師の横顔が、浮かび上がる。
「今迄、訓練していなかった訳じゃない。」
「勝手にやれ。こんどばっかりは、俺は付き合えん。」
「おっちゃんはどぎゃんしようかねぇ。」
「来ないのか。」
「行くて。…こう見えても、あの子に靴下の正しい使い方を教えたのは俺ばい。」
「フン…俺には店がある。降りる。祈るだけは祈ってやろう。」

「誰に祈るんだ。私は無神教でアンチ巨人だぞ。」
「…ランディ・バースでも、パチョレックでも。」
「そいつは効きそうだ。」

 準竜師と味のれんの親父は、不敵に笑うと背を向けて裏マーケットを出ていった。
一人残された裏マーケットの親父は、フンと鼻で笑うと煙草を横の棚に押し付けて消した。
 
 
 
 

 一方その頃。

「目標、捕捉しました。」
 女子校のオペレーターは、ヘッドセットをつけたまま、準竜師の副官を見た。
轟音と共に飛ぶ長胴型きたかぜ。
その中で、天井の手すりにつかまり、厳しい表情をした女がいた。

「時速、180km。信じられません。」
「人であって人でなき者よ。覚えておきなさい。…一流の男は、みんなそう。」

 準竜師の副官、ウイチタ・更紗は、カールした髪をわずらわしそうにかきあげると、準竜師の軍服に仕掛けた発信機の情報を追うように指示した。

「あと、7分で追いつきます。」
「地域一帯の電源を切断。第一級ハンター警戒警報。」
「切断しました。市内全域の女子校の風紀委員に武装の許可。…あの」
「…なにかしら。」

更紗は、ベルトで己を縛ると、サングラスをかけて馬鹿でっかい高射機関砲に弾倉クリップをさした。初弾を装填する。

「どうやって、準竜師の居場所を?」
「芝村の女に教育するのは、私の役目よ。」
 
 

 準竜師と味のれんの親父が、大きく腕を振って夜の大通りを突っ走る。
次々消えていく街灯。
「中村は仕方がないが、伝説の一年靴下は回収したい。」
「そうね。」

「人の命よりも靴下は重い。」
あえて等比式化すれば、地球<人の命<靴下である。
次々と消えていく信号機。
 

「来たか。」
サーチライト。
 味のれん親父と準竜師は、同時に左手をあげて己の顔をかばった。

長い影が、ビルの壁面に落ちる。

二人の男の前に、巨大すぎるヘリが、舞い下りる。

 巨大な二重反転ローターに巻き上げられ、準竜師の髪が揺れた。
きたかぜの側面ドアを全開にして、ウイチタ・更紗は、高射機関砲を構えたまま二人の夢狩人を睨み付けた。

「そこまでです。準竜師。あなたを逮捕します。」
「あら、更紗ちゃん、元気だったね。」
「おひさしぶりです。店主。そしてさようなら。一生臭い飯を食べなさい。」
 店主は、左手をあげたまま、準竜師に顔を寄せた。
「…なに、まだ、理解してもらっとらんとね。」
「女は、すぐ一つの靴下で男を縛ろうとする。」
「同級生だった頃から変わらんねぇ。あんた達は。」

 味のれん親父と準竜師は、左右に飛んだ、その間を、高射機関砲の弾痕が穿たれていく。
低い音と共に、ビルの屋上まで伸びて行く弾痕。
マイクを持って、更紗は言った。
「いい加減にしないと、明日から執務に出ませんからね。泣いて謝るなら今のうちです!」

「うわ、本気で怒ってるばい。」
「だが。」

 準竜師と味のれんの親父は、一緒に顔をあげた。
「俺達は、男の夢を狩る、漢字で書いて夢狩人。」
「俺達の夢は、もう誰にも止められない。」
「なら!」
 味のれん親父は、刺し身包丁で機関砲弾を次々はじいた。
懐から、靴下を取り出す。

 準竜師は、巨体をまったく無視してイーアルカンフーとスパルタンXを足して掛ける2の勢いで、ビルの壁で三角飛びをすると、懐から一対の靴下を取り出した。
両手を交差させる。そして、笑った。
ホバリングして旋回しながら機関砲弾を撒き散らすきたかぜを、コンマ0.01秒差でことごとく避けてみせると、準竜師は燈篭拳の格好で禍禍しい息をはいた。
「ホアチョー! アア!?」
髪を逆立てて全開で怒るウイチタ・更紗。
「連合の白い化け物め! ゴキブリのようなまねを! …死ねぇぇぇぇ!」
「ああ、更紗先輩が切れた!」

 全力射撃するその後ろから、味のれん親父が、悪魔のような笑顔を浮かべて迫る。
靴下を持った手を伸ばし、味のれん親父は、唇の形だけをうごかした。
「殺った!」

 更紗は叫びながら上半身ひねりで自らの乗るヘリごと味のれん親父を撃った。
爆発するヘリ。

「見事な連携プレイだった、親父。」
 準竜師は、白みはじめた夜の星空に浮かぶ、あばよ、な、味のれん親父の幻影に敬礼を送ると、一人爆発炎上するヘリに背を向けた。

「待ちなさい。」
 準竜師の、動きが止まった。
爆発炎上するヘリをバックに、薄汚れた白い制服の女が、高射機関砲をひきずって現われた。
背を向けた準竜師は動きをとめたまま、皮肉そうに口だけを笑わせた。両手を軽くあげる。
「さすがだな。我が副官よ。」
「…7年、耐えました。…いつも。」
「そんなになるか。」

 目をまわした味のれん親父が、炎に巻かれて、熱っ!と走って行く。
尻から煙を出して。
その光景を無言で見守ったあと、準竜師は、煙を手で追い払って、目を細めて言った。

「愛している。」
「嘘をおっしゃい。」
「本当だ。」
「芝村は嘘をつくもの。そうでしょう? その糸目の奥では、あなたはいつだって、他の女のことを考えているのよ。」
「…身体の方には用がない。信じてくれ、靴下だけだ。」

 更紗は、高射機関砲を持ち替えて、準竜師を叩きまくった。
「なお悪いわぁ!」
「なんで?」

 更紗は、高射機関砲の砲身が曲がるまで準竜師を打ち据えた後、肩で息をした。
「帰りますよ。…まったく。一体いくつ陳情が来ていると思っているんですか。」
「…ほんの4000件ほどだ。そのうちプールチケットが3500件。残りが…あの…いや、更紗さん。そこまで怒らなくても。聞こえてます?」
 更紗は、にっこり優しく笑った。
必死に命乞いをはじめる準竜師。
ああー我が悪かった許してくれぇ。いやほんとに悪かったぁ! おおうそうだ、そなたのために勲章をつくろう。うんそうしようそれがいいね。

 更紗は、長い脚を天空に届くまで振り上げると、踵落しで、準竜師を轟沈させた。
目を回して引きずられていく準竜師。

「…たまには、こういうやり方以外で、私と話せばいいじゃないですか。」
 

 準竜師は、引きずられながら片目を開けて白み始めた空を見た。
「今は、何時だ。」
「6時4分です。」

準竜師は、口だけを笑わせると、更紗の顔を見た。
「悪いが、最後に煙草を吸わせてくれないか。」
「煙草は禁止です。あなたの健康に差し障りがあります。」
「じゃあ、コーヒーでいい。」
「あなた方は全員紅茶党でしょう。」
「そうか。じゃあ…」

 ビルを見て、準竜師は笑った。
「我の勝ちだ。」

 次の瞬間、ジャイアントバズーカで撃ち出された大量の靴下が、更紗を押しつぶした。
副官が気を失う瞬間、太い腕を伸ばして更紗を抱き上げ、立ち上がる準竜師。
 
 

朝日。
 
 

 ビルの屋上に、裏マーケットの親父が立っていた。
フンと、言いながら、白い煙をあげる煙草をくわえてみせる。閉店時間を過ぎて、駆けつけてきたのだった。
ビルの屋上に、何本もの細いワイヤーで固定されたジャイアントバズーカから、煙があがる。

 35万。貸しだ。 裏マーケットの親父は、ジェスチャーで言った。
 30万にしとけ。 準竜師は、あっかんべーで言った。

そして二人で、笑いあうと、朝日を見た。
 準竜師は靴下の山に更紗を捨てると、帰りはじめた。裏マーケットの親父は空を見上げ、フンという。それで、その日は、終りだった。
 
 
 
 
 

 一方その頃 倉庫。
 

ボコボコにされて鎖に繋がれた中村は、血の糸を吐きながら、つぶやいた。

「来るな…罠だ。」
 

大丈夫、誰も来ないから。

 

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