起きるかもしれない事故は、すべて起きる
03/12/23
最初に結論から書く。 「今後は“起きるかもしれない事故は、すべて起きる”と覚悟しなければならない」 これは僕を含め、モノ作りに携わる人間への戒めだ。 我が家で事故が起きた。 いつも液体石鹸の入っているボトルに、なぜか漂白剤が入っていたのだ。 気づかずに使った次男の手はカサカサに荒れてしまった。 なぜこんな事故が起きたのか。 漂白剤を液体石鹸のボトルに、妻の母が入れたからだ。 考えられない間違いだと、多くの人は思うだろう。 僕も妻も最初はそう考えた。 だが今は冒頭に書いたとおり「今後は“起きるかもしれない事故は、すべて起きる”と覚悟しなければならない」と痛感している。 “キレイキレイ”。ライオン社の液体石鹸だ。 若い母親とふたりの子供が描かれている印象的なパッケージ。 ゲームファンには“ぼくのなつやすみ”と同じイラストと言ったほうが馴染み深いかもしれない。 この薬用ハンドソープ“キレイキレイ”のヒットを受け、ライオン社は同“キレイキレイ”ブランドの水周り関連商品を発売した。 それが(キッチン)キレイキレイ。塩素系漂白剤。 妻の母が液体石鹸のボトルに間違えて入れた物の正体だ。 薬用ハンドソープ“キレイキレイ”と、(キッチン)キレイキレイのパッケージを比較してみよう。 最も目立つのは、若い母親とふたりの子供のイラストだ。 イラストの人物は異なるが、中央に母親、右に女の子、左に男の子という構成は同じ。3人のシルエットもほぼ同じだ。 次に目に付くのは“キレイキレイ”の商品名。サイズ以外は色、書体ともまったく同じ。 両者ともに白地。それ以外はパステル系の色が主に使用されている。 つまり両者は多くの共通したデザイン要素をもっている。 同じ“キレイキレイ”ブランドなのだから、当然と言えば当然だ。 このデザイン要素の共通性が誤認につながり、前述の事故は起きた。これが妻の母の主張である。 だがライオン社の肩をもつわけではないが… “薬用ハンドソープ 殺菌+消毒” “お台所の除菌&漂白 ふきん、まな板、茶わんに” と、見落とさない程度のサイズで、それぞれに記されている。 字が読め、それなりに注意力がある、大多数の成人は間違えようがないように思える。 また液体石鹸と漂白剤の違いは、手に取った瞬間、蓋を開けた瞬間、普通なら気づきそうなものだ。 だが事故は起こった。これは事実である。 妻の母も次男も“若い母親とふたりの子供のイラスト=液体石鹸”の先入観に支配され、まったく疑いを抱いていなかった。 今後数十年間、妻の母のような老人の占める人口は激増する。 一緒に生活すればわかるが、老人の知覚、瞬時の判断、記憶の更新など情報の処理能力は、標準より思いのほか低い。 しかしそれが彼らの標準であり、今後の大多数の標準となる。 また僕の次男ほど注意力が散漫な子供は多い…、とは思わない。 が、小学校ならクラスに3人くらいは必ずいる程度に少なくはない。 なぜこんな単純な間違いが起きたのか、僕も当初理解できなかったくらいだ。 ライオン社を、今は責めるつもりは毛頭ない。 だが社会の趨勢として、数年後には判断の基準は必然的に変わるだろう。 冒頭に書いた結論を繰り返す。 今後は“起きるかもしれない事故は、すべて起きる”と覚悟しなければならない。 起きるかもしれない事故が起きれば、僕を含め、モノを作りに携わる人間の責任なのだ。 それくらいの自覚でちょうどいい。 たぶんそんな時代なのだ。 以上 雑談: とは言え、たぶんゲームでは、それほど深刻な問題は、頻繁には起きないと高をくくっている。 だがしかし最近、開発の現場でよく耳にするのは、例えば… 「そんなアホなことをするやつは絶対いない」だったり 「時間がない人間はRPGをやらなければいい」だったり 「ドラクエをやったことのある人には説明不要」だったりする。 これらの意見は本質的に、キレイキレイの漂白剤と同じだ、と思う。 消極的な防衛策だが、我が家は今後“キレイキレイ”ブランドを使用しない可能性が極めて高い。 同ように、上記のような意見をもつ開発者が制作したゲームは、知らず知らずのうちに自ら市場を狭めているように思う。 |