ボリショイサーカスを観る
98/7/
7月末にボリショイサーカスを家族で観に行く。 結論から言うと「やっぱ世界一と呼ばれる連中は違う」である。 曲芸自身のテクニックのレベルは凄まじく高い。 しかしながらこれは天下のボリショイサーカスである。当然だ。 その先の工夫があるか否かが一流と“超”一流の差である。 今回はそれをまざまざと見せつけられた。 おかげでディズニーランドへ行って以来の“知恵熱”が出る。 (僕はあまりに情報量の多いエンターテイメントに遭遇するとその分析にエネルギーを使うのと、自分の作るモノとのあまりの差に落ち込むのとで 本当に熱が出る。情けない。) 以下具体例の羅列。
●前座。フラフープを回すチャーミングなおねーさん。
「でも常人よりたくさん回せるだけ?」
…と思ったら、フラフープを回したままで一気に20メートル宙空へ。 その間0.5秒くらい。 もちろんタネを明かせばロープで引っ張り上げているだけだ。 が、その様はライティングの効果もあり、さながらティンカーベルのごとく可憐にして幻想的。 さらに10秒後、フラフープおねーえさん、客席の上空へ飛来。 ようするにロープで振り子のように揺れてるだけなんだけど、猿之助とタメはれるのは彼女だけ、というくらい口がアングリ開く! でも2、3往復ユラユラしただけで、さっさと退場。 この引き際の鮮やかさは、トゥルーラブストリーの“つまらなくなる前に終わってしまえば、それはすなわちおもしろい”の究極パターンだ。
●象の逆立ち。
まッ、それだけでもかなり凄いがボリショイの象はさらにここから片手(前片足)立ちをして見せる。
たぶんこんなコトができるのは世界でこの象だけなんだろうなあ、と感心するものの、いかんせん“静止”の芸なので、ため息は出ても歓声は少ない。 象と象使いのオバサン、愛想をふりまきながらゆっくりと退場。 …と見せかけて再び舞台中央へ。 次の瞬間、象はオバサンをその鼻に乗せグルグル回り始める。大ウケ! 芸の難度としては「片足立ち」のほうがはるかに高度ではあるが、この「鼻に乗せてグルグル」との合わせ技で強引に一本勝ち。
●10匹くらいの犬。前半は軽いギャグと芸で構成。
長い縄を携えて2人の助手登場。縄を回し始める。
犬使いは10匹のうちの1匹だけを指名。 この犬に十分に言い含めるフリをした後、その犬に縄跳びをさせる。 「この芸は難しいからこの犬だけの特技なんだろうなあ」 …と思った瞬間、残りの犬もいっせいに回る縄の中へ。
●直径2メートルくらいの派手な色の球体が舞台を高速で自走。
「なんじゃ?」と思う間もなく、球体の下から一輪車の車輪が覗く。
「なーんだ。球体の中に人が入って一輪車をこいでるわけね。で、これだけ?」と思う間もなく、球体はバラバラになり中から人が出現。 手には8本くらいのカラフルな傘。 「球体と思ったのは開いた傘だったのか!」と思う間もなく、その傘が次から次に宙を舞う。 ようするにこの芸人の持ちネタは、一輪車に乗りながらのジャグル。 ボリショイの中にあっては技術難度は低い。 が、上記の意外な展開のたたみかけをやった後だ。ウケないわけがない。
●“たたみかけ”といえば曲馬団のスピードと迫力も申し分なし。
でも文章で説明できそうにないので省略。
●「熊のボクシング。ミーシャVSマーシャ!」のアナウンス。
趣向としてはかなりいいセンだ。
が、20秒ほどの1ラウンドを終わっての感想。 正直言って「それなりだが思ってたほどはおもしろくない」 再びアナウンス。ショーであることを逆手にとった気の利いたギャグ。 「現在までの対戦戦成績ミーシャの100連敗中。 ただし今回勝てば世界チャンピオン!」 さて2ラウンド開始のゴング。 試合自身はおもしろくないのだから、すぐに決着がつくはずだ。 それもこの演出の流れから言ってユーモラスな展開… ミーシャのパンツが脱げた! 試合没収! うちの息子たちは涙を流して笑う。 でもこれだけで終わらないのが“超”一流の証し。 ミーシャに対して“恥ずかしそう”に退場させる演技の調教を怠らない。 これには僕も笑ったが、同時に背筋が寒くなる。 ここまで行き届いたサービスは、僕の作るゲームにはないからだ。 こんな連中と5千円前後の同価格帯でエンターテイメントの勝負をしてもそれこそ100連敗間違いない。 他にも空中ブランコ、幕間のピエロとダンサーなど紹介したい出し物はいっぱいある。 大道具小道具の設置撤収の手並みの鮮やかさだけでも見る価値はある。 入場料はほぼゲーム1本分の値段だ。 今現在までに僕が作ったゲームより完成度が高いことは保証する。 ぜひ機会があれば自分の目でご覧あれ。 桝田省治
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