怖! お化けの出ない肝試し

00/08/31


 記憶は定かではないが、たぶん中3か高1のいずれかだったと思う。
 場所は京都の大江山。季節はもちろん夏。
 いわゆる林間学校というやつだ。
 で、最終日、お決まりの“肝試し”。
 くじ運には縁のない僕は、当然のごとく男女のペアから漏れお化けの役となる。

 僕を含めたお化け役男子5、6人は、肝試しのルートを歩きながら、出現場所が重ならないようそれぞれの隠れ場所を決めた。
 僕の持ち場は、川の土手の上の道(肝試しのルート)から、1メートルほど下がった茂みの陰。

 断面図:   茂  道
      僕  ▽───
       ●/      \
      /          \川


 昼間なら確実に姿が見えてしまうような場所だが、幸い街灯はまばら。
 僕は息をひそめ、くじ運のいい奴らを待つ。
 ふと横を見るといつからそこにいたのか、僕の格好をマネするように茂みの陰に腰をかがめている中年男がいた。
 目が合った。
 「どっから来たん?」と彼は聞いてきた。
 で、僕は学校のある市の名前を答えた。
 「ふ〜ん、そうなん」

 しばらくすると
 「どっから来たん?」と彼。
 僕はその市を彼が知らないのだと思い、京都市とその市の位置関係を教える。
 「ふ〜ん、そうなん」

 しばらくすると
 「どっから来たん?」と彼。
 酔っ払いならヘタに逆らわないほうがいいかも… とか考え、もう1度、ていねいに市の名を告げる。
 「ふ〜ん、そうなん」

 しばらくすると
 「どっから来たん?」と彼…。

 この不毛な会話は、1台のワゴン車の登場まで5分ほど続く。
 その車は僕たちの前を20メートルほど通り過ぎてから、バックして来た。
 暗闇でもそれとわかる白衣を着た男性2名が下車。
 「さッ、帰ろう」
 彼を両脇からかかえるようにして、ふたりは車へ消え去っていった。

 で、肝試しは終わり。
 風呂に入り、スイカを食べ、就寝… とはいかなかった。
 「そういや、Y君がいない」とだれかが言い出した。
 確かにY君はどこにもいなかった。
 Y君も僕同様、お化けの役。
 彼の持ち場は、肝試しのゴール手前。
 橋のたもとの暗がりだったと記憶していた。
 が、だれもそこでお化けに遭遇した者はいなかった。
 急ぎ男子20名ほどと教師で、捜索に出る。

 橋のたもとに到着。
 捜索範囲は川の中も含まれていた。
 あちこちで懐中電灯の光とY君を呼ぶ声が交差する。
 そして遂にある生徒が教師を呼んでこう言った。
 「地面の中からY君の声がします」

 聞こえた。
 Y君の名を呼ぶたびに「ここで〜す」と、か細い声が僕らの足の下から聞こえた。
 懐中電灯で照らす。
 ほどなく1辺50センチほどの正方形の穴が見つかった。
 排水口のようだった。
 地表から1メートルほど下にY君の顔が見えた。

 彼は2時間、真っ暗闇の中で、身動きも取れず、あごまで水に浸かっていたらしい。
 なぜ排水口のフタがなくなっていたのか、どうやればこんな小さな穴に人ひとり落ちるのか、みんな不思議がっていた。
 Y君も「どうしてこんなことになったのか…」と言っていた。
 ちなみに宿舎に戻ると、Y君のスイカは、留守番の女子たちが残らず平らげていた。

 僕の推理:
 Y君はお化けの使命を全うすべく、自分でフタを外し自分で入って出られなくなったにちがいない(笑)。

桝田省治
Alfa・MARS PROJECT