1「キミも天狗になってみんか」

99/1/19 桝田省治


 目が覚めても鮮明に覚えている夢をときどき見ます。
 たいていはとりとめのない夢ですが、中にはわりとおもしろいのもあります。
 というわけで、昨年の暮れに見た夢。

 朝の10時頃、僕は自宅のベッドで惰眠をむさぼっている。
 ピンポ〜ン、呼び鈴が鳴る。でも僕は面倒なので出ない。
 ところが不思議なことに扉の外に立っている人物の用件が、頭の中に直接流れ込んで来る。

 「キミも天狗になってみんか」
 彼は確かにそう言った。
 「ついては、天狗になるための面接試験を行うから、もしその気があるなら○月○日○時に新宿3丁目のA3階段まで来てくれ。」

 なんじゃ、そりゃ? 天狗になってみんか、だと?
 まッ騙されたら騙されたで話のタネにはなるなあ、というわけで指定の日に都営新宿線で新宿3丁目の駅へ行ってみる。
 ところがA3階段は水道管の破裂で水浸し。通行禁止の標識が立っている。
 一応、面接ということで僕の姿はスーツに革靴。
 革靴が濡れるのがイヤだったけど、確かにA3階段と言っていたのでロープをまたいでジャブジャブと階段を昇る。

 「1次試験はパス」と声が聞こえた。
 階段を昇ると、なぜかそこは京都の四条河原町の交差点。
 阪急電車の四条河原町駅から地上に出る階段のひとつを上がったところだ。

 やっぱ天狗と言えば、鞍馬ってコトで京都なのかな? などとのんきなことを考える。
 いつの間にやら手に地図を持っている。
 面接会場は三条河原町、東宝の横の雑居ビルの3階らしい。
 10分弱歩いて目的の建物へ到着。
 ちなみに1階は占い喫茶、2階はヨガ教室とエステ、4階はサラ金、5階は風俗関係。いかにも怪しいビルだ。

 控室には、僕を含めて男が3人。年齢も近い。
 だいたい僕と似たような経緯で、ここへ冷やかし半分で来たらしい。
 男A「やっぱ天狗になろうなんて物好きは少ないね。」
 男B「いやホントはこの御時世だし、100人くらい集まるはずだったらしいよ。でもほらあのビル…」

 男が指さす先を見ると、道を挟んだ正面の立派なビルには長蛇の列。
 男B「あっちはサ、“キミも竜になってみんか”の面接らしいんだ。でもむこうは競争率、高いから…」

 ここで目が覚めたので、オチはありません。あしからず。
桝田省治
Alfa・MARS PROJECT