2「電子妖精と遊ぶ」

99/1/19 桝田省治


 「キミも天狗になってみんか」に続き、また夢の話。
 僕は超古代文明の遺産の巨大ロボットの操縦士に抜擢される。
 (いかにもゲームにありそうな馬鹿げた設定だ、と我ながら呆れるが、まッ夢なのでしょうがない)
 博士らしい人物の説明によると、このロボットは妖精の姿をした4つのエレメントのバランスによって動くらしい。
 「操縦士になったからには、彼女たちにあいさつくらいはしておいたほうがよかろう。女性のご機嫌を損ねると後が大変」と彼は言う。
 全くもってその通りと僕も思ったので、小さな電子基盤の中の世界へ僕は送り込まれる。
 着いた先は、一面に水田が広がる夜の田園風景。静かだ。
 僕は永遠に続くのではないかと思われるほど、真っすぐ延びた農道にポツリと立っている。
 その農道から90度の角度で無数のあぜ道が枝状に延びている。
 あぜ道の先は薄暗くて見えないが、とにかく民家の明かりらしきモノすらない。
 僕は途方に暮れるが、公衆電話を発見する。

 博士にもらったメモを取り出し、妖精の電話番号を押す。
 相手が出たので、僕は道を尋ねた。
 妖精の答えはこんな感じだった。
 「そこから右へ行って次を左。で、また右。そしたら左。その次を右、またまた左。あとは適当に右、左、右、左、右、左ね」
 「そんなイイ加減に歩いてあなたのうちにたどり着けるんですか?」
 すると妖精は笑いながら
 「たどり着けるかって? そんなの無理に決まってるじゃない。でも大丈夫。じゃ、あとで」
 電話は切れた。

 しょうがないので何度も水田に落ちそうになりながら、暗いあぜ道を右、左、右、左、右、左…と急いで歩く。
 ぜんぜん風景は変わらない。だんだん不安になる。
 しばらくすると赤青黄緑の小さな光が四方から飛んできた。
 トンボのような羽をつけた4人の女の子、森永のチョコレ−トに昔オマケで入っていたカードそのままの姿の電子妖精だ。

 「どうして僕の居場所がわかったんだ?」と聞いてみた。
 「だってこの世界には右、左、右、左なんて、そんな間抜けな動き方をする点は存在しないもの。すぐにわかるわよ」
 電話の声の妖精が答えた。
 確かに彼女たちには羽がある。自由に水田の上も飛べる。
 移動の軌跡を見れば判別は簡単か。
 …ということは僕が水田に落ちそうになりながら歩かされたのは、特定の目的地があったわけじゃなくて、移動すること自身に意味があったということか。
 一生懸命歩いて損した、と後悔する。

 次に僕は「ところであなたたちの名前は?」と聞いた。
 そんなモノはないと言う。ついでに住所もないらしい。
 敢えて言えば、ひとりひとり動き方の式が違うので、必要があればそれで個体や居場所を識別し確定するそうだ。
 そういう意味では、この世界での僕の住所と名前は“右左右左”、もしくは“0101”だそうな。トホホな感じだ。

 「なんとなくわかった気もするが、自信がない」と言うと、
 4人の妖精は僕の肩や頭に取り付いて、そのまま僕を宙空へ運んだ。
 どんどん高くなって行く。スピードも上がる。
 僕がさっきまでいた田園風景と似た景色の場所へ下から突入した。
 さらに上へ。また同じだ。
 どうやらこの世界の空間は、何千何万という田園風景のような地形が積み重なっているらしい。
 ここで、はたと気づく。今まで僕が農道やあぜ道だと思っていたのは電子回路だ。

 「これがあなたの世界で言う、高さ。XYZのZ軸。」
 僕の髪の毛を引っ張っていた妖精がこう言ったかと思うと、急旋回。
 何か柔らかい膜のようなモノをすりぬけた。
 でも出たところはあいかわらずの田園、いや回路の風景だ。
 何が変わったのか僕にはさっぱりわからない。
 少し明るくなった程度の違いか。はっきり言って、期待ハズレだ。

 「で、今のが時間軸。わかる?」
 えッ!? ちょっと待て、こら! と思ったところで目が覚めた。

桝田省治
Alfa・MARS PROJECT