PCE版リンダ苦労話2

95/11/18 (Nifty SM-FANパティオの発言より)


 先日、都内某所で某ゲームの打合わせで初対面のキャラデザイナーに「リンダ」を勧められた (笑)。 彼はまだ買ってないそうなのだけど(買えよなあ)「広告で見てピンときた!」と熱 く語ったのだった。
 周囲の人は、彼がお世辞を言ってるものと最初は思っていた。途中で本当に僕が作者だと知ら ないらしいことに気づいて焦っている様子がなかなか見モノですこぶる面白かった。
 彼のような人を当て込んで作ったつもりだったし、雑誌等の評判もけっこう良かった・・・  なのにこれがさっぱり売れなかった。確かにPCエンジンの市場は先が見えてるし、内容的にも 見栄えは良くないし、キャラデザインも通好みだし、例のバグ騒ぎでケチついたし・・・ でも なあ、僕は今どきの凡庸なRPGに比べりゃ、ずーっと、ていねいでツボを押さえた秀作だと思 うのだけれども・・結果として売れなかった・・・。
 というわけで、実は近頃かなり落ち込んでいるのだけど、次のプロジェクトで日々多忙なので、 一応元気なフリだけはしています。

 でもね、僕自身の中にあるこの「うっぷん」「落ち込み」「精神的残尿感」「悔しさ」等の混 じった感覚の正体は外的要因ではないということなのです。
 未だ気持ちが整理されていないせいで上手く表現できそうにないのだけど敢えて言うなら「や れる全てのサービス、あるいは使用可能な自分の武器を惜しげもなく投入したのか、おまえ(僕 のこと)は? 少しチヤホヤされていい気になって手を抜いて、余裕かますほどいつから偉くなった? 客をなめんじゃねぇぞ、バーカ!」とか「Linda3というゲームの斬新さや素材の良さ に甘えて、そこで満足してたんじゃないの? だからおまえ(何度も言うが僕のこと)はいつま でたっても二流だってんだよ」てなところなのです。

 僕は皆さんが思ってるよりはたぶん抜け目のない人間なので、ご指摘の条件は頭ではわかって いました。おそらく今までがそうであったように他人のゲームなら、卑怯と言われようが反則呼 ばわりされようが最悪の環境下でも少なくとも引き分けには持ち込んでいたはずです。天外I、 メタルマックス、エメドラ・・全てそうです「売れてナンボ」とか「文句は1番になってから言 いな」とかクリエーターの神経を逆なでするようなことばかり言うイヤなヤツでした。

 それがなぜか「Linda3」では違っていたのです。

 開発中には気づかなかったということは信じてもらいたいのですが、今は天外IIを作ってい た時に比べて明らかに手抜きであったことを自覚しています。スタッフに対しても何より自分に 対してもちっともイヤな奴ではなかったように思います。

 例えば、リンダがケンを殴るシーンがあります。これは直情型(口より手が先に出る)のリン ダのキャラ立ての演出です。そのシーンのインパクトがそこそこあったので、そこから先の可能 性について僕は何ら検証していませんでした。ここはリンダは蹴るべきで、ケンは股間を押さえ て5回くらい跳ねるほうが絶対うけたはずです。こんな基本的なこと(プロにとっては宗教や民 族を越えて確実にとれる笑いは基本なのサ)まで忘れていました。

 要するに甘えと過信です。

 だから僕は猛烈に反省しています。既に問題点がわかったのでもう悩むなどという無駄に時間 を費やすのはやめました。僕はそれほど愚かではないし、二度と同じ過ちを繰り返すほど愚かで もありません。

 ついでに言うと、ころんでタダで起きるほど愚かですらないです。
 今すぐやるべきこともわかりました。
 それを実現するために某社と取り引きしました。
 先方より出された交換条件がまさに「天外II」みたいなヤツの製作。

 でも来年とか再来年とかには出せません。「天外II」程度ですら、僕個人は3年以上かかっ ていますし、製作環境を整備するのに、当時の(現在ではもう絶対無理)ハドソンの人的ネット ワークをもってしても2年半くらいかかっています。
 残念ながら僕にも某社にも、現在その体力はありません。
 ハドソンにはありますが体質がありません。

 開発する側から言えば、「天外II」みたいなゲームは非常に効率が悪いのです。例えば「天 外II」と「カブ伝」は、ほぼ同じ本数が出荷されました。後者は構想から開発、発売まで前者 の1/4。かかったマンパワーは質的なものまで評価すれば1/100以下のはずです。
 利益を目的とする企業にとってどちらの評価が高いかと言えば当然、後者となります。3つと か4つに薄めればさらに効率は上昇します。これが何を意味しているかはわかりますね。
 体質がないとは、そういうことです。
 また僕や岩崎君のような外部の人間(天外IIの製作ではグラフィックの一部を除き、ハドソン、 レッド両社の内部の人間は10%以下)にとっても、それこそ「ビヨビヨ」くらいの手頃な ものを3〜4本作るほうがローリスク、ハイリターンです。僕らは「カブ伝」が何本売れようと 1円にもなりませんしね。
 じゃ、なぜ僕らは「天外II」を作ったかというと「製作費を考えず質だけを考えろ」なんて いう話は一生ないと思ったからです。
 決して利口とは言えないが馬鹿ではない僕らは、開発中に先に書いた構造的矛盾に気づきました。 それでも最後まで投げ出さずにそれなりのレベルまで仕上げたのは、広井王子氏の「まかせ た」に対する「男の約束」と期待しているユーザーに対する「男の意地」。くだらない理由です がこの2つだけでした。

 だから正直なところ「天外II」みたいなヤツは、スタッフは誰もやりたがっていません。

 でも、やる!
 今回もまた「男の約束」と「男の意地」です。
 僕はこの2つに動かされる自分が大嫌いです(笑)。
Alfa・MARS PROJECT