レ録り雑感

96/11/02 (Nifty SM-FANパティオの発言より)

その1

 NKとL3Aのナレ録り、無事終了しました。
 10月26日〜11月1日まで、10月31日を除いてぶっ通しだったので、4日目あたりで ときどき意識が飛ぶこともありました。
 笠原弘子さんにキャラの説明をしている最中に隣りに座っているはずの彼女の姿が白くなって 消えたり、高山みなみ先生の声が途中から聞こえなくなったり、けっこうヤバイなと何度か感じ ました。
 5日目は、L3Aの録音だったのですが、自分の耳と頭に自信がもてなくなったこともあり、 演出家の席に松浦さん(アニメ界では有名な演出の大御所)に座ってもらうことにしました。  その結果、L3AはPCーE版L3の僕のワザとらしいくどい芝居がかった演出に比べると、 かなりさわやかというか優しい感じの声のトーンが全体に増えています。
 キャラクターもかわいくなっているので、「それもまたよし」と、思っています。
 たまには一流の他人に委ねてしまうのも面白いものだし、客観的に見られてある意味でとても 勉強になりました。

その2

 NKは自分で想定してたより、キャラの仕上がりも台詞も面白くなったのでけっこう面白くな りそうです。
 とくにL3や天外II等でクドめキャラが好みだった方、強引な展開に笑ったりビックリした 方には、自信をもってお奨めできます。
 愛用のムチとしかマトモにしゃべれない自閉症の女、二重人格の片方の出現におびえる女、カ エルの呪いで「ケロケロ」としかしゃべれなくなる高慢な女・・・。
 12人の女の子がひとりとして実は普通ではない(笑)。
 全員がウソつきでしたたかで、僕の思うところのかわいい女です。
 この問題山積みの乙女たちがさらにお互いにからんでくるのでプレイヤーはいやおうなく頭を 抱えることになります。
 それを楽しむ余裕がない人には、ストレスのたまるだけのゲームになることは確かです。

 クドめキャラといえばモンスター関係の悪役の演技にもぜひ注意してください。デュークペペ 、マントー並みのがドカドカでてきます。
 腹をかかえて笑えるタイプから夢に出てきそうなのまでいろいろとり揃えました。
「ブンブン」きてます。

 しかし今回のNK録音で最もたいへんだったのは、ドタンバでナレ原稿を差し替えなきゃなら なかったこと。
 要するにH関係の表現にメーカー側からクレームがついたわけです。
 直すこと自身は別にかまわないのですが、そのHな台詞の中に伏線がそっと混ざってたりする と「さあ、たいへん」となるわけです。
 積み木で塔を作ってる最中に途中の積み木に文句がついて、急いで同じ型で色が違う積み木を 捜すようなことをしなければならなくなります。
 NK発売前後に元の原稿と実際にはどう録音したかの対応表をアップします。面白そうでしょ ?
 たとえばこんな調子「発情する」→「色気づく」とかね。
 どのシーンとか誰の台詞とかいうのは書きませんから、実際のプレイ中にでてきたら「本当は こうだったのね」と想像して、笑ってやってください。

 高山みなみ先生はともかくとして、荒木香恵さんもほとんどリテイクがなくて凄く楽でした。 いやいやお上手、さすが「チビうさ」。
 全体的に演技のレベルは相当高いです。
 出演の声優さんのファンの方も安心して買っていただいて大丈夫です。

 L3に続き、NKでも高山みなみ先生の演ずる二役の会話をサービスで入れておきました。  あいかわらず大したモンです。

 それと「足下兄弟」や「ケンとネク」を演じている矢尾クンが今回は、フィアンセに逃げられ た半魚人の王子様をやってます。
 そうとうキレちゃってます。お楽しみに。

その3

 L3Aのアニメーションパーツ(編集前)を始めて見ました。
 PC−E版の時は、マップ上でちょこちょこやってた殺人シーンが今回のアニメーションパー ツに数カ所格上げになっています。
 はっきり言う。凄いゾ。
 アフレコのテストをやってた声優さんたちの「わあ!」とかいう声がスタジオの外にもれてま した。
 ありゃ、どんな心の広い人も例の「残酷警告」マークを貼ることにためらいを感じません。
 その中でも特にイっちゃてるのが「サチコの変身シーン」。
 まあ、そこだけで2回声が出ること受け合い。
 それと青野さんの「サチコでどーだ!?」もさらにパワーアップしています。
 そのシーンの録音の後、しばらく声優さんやスタッフの会話が「○○○でどーだ!?」になっ てしまいました。
 PC−E版で既にあのシーンを知っている方ももう1回笑えることを保証します。

 しかしあらためて台詞を録り直して思ったのは、「伏線」の多さ。
 おそろしいコトにひとつの台詞のなかに2つくらいは入れてあるんだもんナ。
 PC−E版の録音をしたのがもう一昨年なので、原稿書いた本人もすっかり忘れてて、その巧 妙さとしつこさにある意味、関心しました。
 よく練ってあるよ、あの台詞は。
 サチコ役の佐久間さんは二年越しで伏線の意味が録音の途中でわかったらしくて、「あっ!  そうかそうか あ〜!」とか突然叫ぶもんだから、リテイクになっちゃうし。

その4

 今回、10月25日のL3Aの後歌の録音を含めて高山みなみ先生に3回も会えたので、『至 福』でありました。まっ、それは置いといて。
 NKではメインの女の子1人の他におばあさん役(それもとびきりイジワルなばあさん)もや ってもらいました。
 で、僕は幼い少女(子供の時のリンダ)からそのおばあさんまで彼女の演技の幅を確認できた わけです。
 決心しました。ここ3、4年のうちに次のようなゲームを作ります。

 題して「女の一生」。
 内容は、1人の女性の一生にプレイヤーが「恋人」として、あるいは「傍観者」、場合によっ ては「敵」として影響を与えていくゲームです。
 プレイヤーはある時点でタイムマシンのようなモノを手に入れ、彼女の人生のターニングポイ ントに出現することができます。
 シナリオの構成を面白くする自信もありますが、基本は高山みなみ先生の演技を楽しむことが 目的です。
 いやね・・・高山みなみ先生と話していて「将来赤ちゃんができたら絶対潔く仕事をやめる」 とおっしゃるモンで、僕としては「それならこの天才の凄さを後世に残す作品を作るのはそれは 僕の仕事だ」と勝手に強く感じたわけです。
 他の仕事、全部やめてもいいや、という覚悟です。

その5

 L3Aのナレ録りの演出を松浦さんという方に任せたという話を前に書きましたが、その時感 じたアニメとゲームの演出の違いについて書きます。

 アニメというのは当然絵が同時に動いていてどっちかと言えばその絵のほうが主役ですらあり ます。
 それに比してゲームの方はいわゆるビジュアルシーンを除けば小さな人物キャラが向き合って るだけの状況での会話がメインです。
 その小さなキャラが時には跳んだりころんだり笑ったりもしますが細かい感情のニュアンスは 絵として伝えることはかなり難しい。
 顔の表情もせいぜい喜怒哀楽、普通の5パターンくらいがウインドウの横とか上に表示される 程度です。
 だからゲームのナレーションはかなりオーバーめで、かつゲーム進行に関わる「情報」は確実 に強調しないといけなくなるわけです。
 結果として「クサい」「わざとらしい」芝居が要求されてきます。
 さらに僕のゲームに出てくるキャラは曲者がほとんどなので、より「クサさ」「わざとらしさ 」も倍加される傾向にあります。

 今回松浦さんのナチュラルな演出を後ろで見ていて「こういうのもこれからはアリだなあ」と 思いました。
 というのもハードの進化で必要なら、主人公をアップにしてもいいし視点をわかりやすい所へ 移動してもいいという点で表現の幅が格段に広がったからです。
 でも現状そういうとこに思いきりこだわって、新しい機能を上手に使ってるゲームはあまりな いようにも思います。
 そのあたりを攻めてみると、けっこう面白いかもなと気づいた次第です。
 岩崎先生がこのへんのコトうるさいから、凝った演出してくれるとレベルが違う凄いのが出て くるはずです。(あいつ最近、何やってんだろ?)

 あともうひとつ違うなあと思ったのは、松浦さんの演出はモニターの中の世界に関してで、僕 のはモニターの前のプレイヤーをこうしたいという演出なんです。
 例えばキャラの誰かが死んだシーンだと、松浦さんは「リンダはこう泣け」なんだけど、僕だ と「プレイヤーを泣かせたい。方法は任せる。」なんです。
 これも今までメシ食ってた媒体の違いとはいえ、ゼンゼン違ってて気づいてみると非常に興味 深い差でした。

その6 キャスティングの成功と失敗について

 NKとL3Aのキャスティングで1番うまくいったのは、何といってもNKの王様役の内海賢 治さん。
 なにしろ他の声優さんにNKの説明をするのに「信望が厚く、でもイイ加減なとこがあって、 決めるトコは決めるけど、でもスケベな王様がいて・・・」と始める際に「つまり内海さんみた いな」とつけると「はいはいはい」と皆さんすぐ理解してくれてとても楽チンでありました。  オマケにゲーム自身のノリも説明が不要になるし、一石二鳥、いやいや大助かりでした。

 あと、皆口さんの色っぽい声とドスきかせた声を確認できたのも大収穫。
 NHKの教育の方で「かけ算姫」(算数の番組にピラピラのドレスを着て本人が役者として出 演!)を見た時に「開き直り」を感じたのでいつものフワフワ声以外の部分に少し期待してまし た。
 いやいや芸風が広がっててビックリ!
 こんどは「悪女」系の役を「いってみよお!!」と皆口さんと約束したのでした。(聞いてみ たいと思わない?)

 篠原恵美さんと天野由梨さんは初めてだったのですが、二人とも演技が計算できる、信頼でき る達者な方として僕の頭の引き出しに整理されました。
 この引き出しは冬馬由美さんがエメドラから入っている引き出しです。

 鶴ひろみさん、藩恵子さん・・・このあたりは、とにかく頼めば何だってやってくれるから好 き。年も僕と比較的近いし。
 今回、このグループに皆口さんと勝生真沙子さんを勝手に分類しました。
 とにかくこのへんは演技は上手いのは当たり前で、それ以外に人間として「カッコいい」。 (ヘンとも言う。)
 おそらく今後、僕のゲームには出演が増えると思う。
 だって録音が楽しいから。

 井上喜久子さんは高山みなみ先生と違う意味で天才です。
 声がキレイなんだもん、絶対的に。
 で、またその声の出し方がすごく耳ざわりが良い。
 ありゃ、ヒキョーです(笑)。
 キャスティングのミスというか、僕の不勉強なんだけど、今回神谷明さんに代えて、リンダの パパを二又一成さんにやってもらったんですが失敗しました。
 僕が思ってたよりずっといろいろやれる方で、あんなに上手い人ならもっと複雑なニュアンス の台詞をいっぱいほうり込んでおくんだった。
「あ〜もったいないコトしてしまった。」というのが正直なトコです。

  それと高山みなみ先生のNKのほうの盗賊の「チコリ」役も失敗でした。
 簡単過ぎてちーともリテイク出さないからこっちは必死で原稿を水増ししたのにあッという間 に終わってしまった。
 僕としてはあの先生が「どーしようか」悩む姿を見るのが好きなのに・・・。
 笠原弘子さん、荒木香恵さん、丹下桜さんあたりもあまりに当たり役を振りすぎて若干物足り なさを感じましたが、まあそれはゼイタクというモノでしょう。

 今回の録音でよーくわかった僕自身のコト。
1:演技があまりに僕の予定通りにピタッとはまるのは、録音してて退屈だ。
2:他の声優さんの演技を台無しにしそうなテンションの高い演技をやってくれちゃう危ない声優を僕は明らかに好き。
3:高山みなみ先生の才能の底が見えた時がたぶん僕のゲーム作家の底が見える時だろうと何となく確信、いや観念した。

 そうだ! 1回僕の頭の引き出しに大切に保管してある声優さんたちの中で、サイコロを振ってイイ加減に決めた配役でやってみよう。
 録音現場が荒れて楽しそう。
 あっ、高山みなみ先生をだまして、演出家の席に座らせるというのも企画としては一興だナ
Alfa・MARS PROJECT