クストキング「企画の成り立ち」

97/07/07


 これから書くことは、ハッキリ言ってユーザーの皆様には純粋に僕のゲームを楽しむという意 味では関係のないことです。
 書く目的は、ネクストキングの成り立ちを僕自身が整理しておくと、後々僕が同じ種類の思考 過程をたどることがあった場合に、処理の確度が高くなると期待しているからです。
 ただこういう自己分析が、制作者本人によってされた文章が公開されることはほとんど無いで しょうから、そういう意味では興味のある人には面白い読み物になると思い、ここに記しておく ことにしました。


1:ネクストキングの着想の原点:
 前にも書きましたが、NKの原点はおそらく学生の頃に数度プレイした“初心者向けの対戦型 のテーブルトークのRPG”です。
 このプレイ時に僕が感じた面白さは、単純なルールと競争相手がもたらす予想外の局面の変化、 それにサイコロの目という運の要素、この3つのバランスの妙味であったと思います。
 何のゲームだったかも覚えてないくらいですから、シナリオや世界観はゲームの目的の提示に 使われた程度の、まッどうでもいいようなモノだったはずです。

2:ライバルのいるRPGの企画:
 いつ頃だったか正確には覚えていません、たぶん天外IIの企画をやってた時分ですから8年 くらい前です。
 シナリオ上ライバルの存在するRPGというのを考えていたことがあります。(対戦ではあり ません。)
 設定としては、中世ファンタジー。その国には年老いた王様がいます。子供はお年頃のステキ な王女様ひとりだけ。
 王様は王女様の結婚相手、つまり次の王様を決める旨、宣言をします。
 プレイヤーは複数いる王様候補の青年のひとりです。
 王様はこの国の解決すべき問題(クエスト)のリストを彼らに提示します。全部で20種ほど あって、1度にそのうちの3種くらいが提示されます。
 プレイヤーはそのクエストを自由に選び挑戦します。
 そのクエストの解決数や所要時間、順番などにより王様にふさわしいか否かを王様あるいは王 女様が最終的に判断します。
 このゲームの面白さは、グズグズしているとライバルたちがどんどん勝手にクエストを解決し まくるという点です。
 また武器や防具も先に買われると品切れだったり、後からダンジョンに行っても宝物がない、 などということが起きます。
 面白そうだなと思ったのですが、どういうシステムでまとめていいのかその時は思いつかず結 局のところ断念したわけです。
 この時はネットワークゲームの「ネ」の字も知りませんでしたしね。

3:ときメモにはまる:
 岩崎先生から「きっと売り切れるから発売日に買え!」という熱い熱い電話が入り、それを信 じて買ってみました。
 結論から言えば、非常に面白かった。
 で、今まで全く興味がなかったいわゆる「ギャルゲー」あるいは「恋愛SLG」に少し興味が わき、僕もチャンスがあれば1回くらいは作ってみたいと考えるようになりました。
 僕が作るとしたらどんなモノになるかをアレコレ、自分の経験と照らし合わせて想像してみま した。
 出た答は2つ。
 ひとつは“ライバルの存在”。
 僕の恋愛は一言で表すと「取ったり取られたり」のパワーとスピードにあふれるモノでした。
 その時は「恋はゲーム」だなんて考える余裕は当然なかったわけですが、今振り返るとまさし く「恋はゲーム」だなと思える“青春時代”でした。
 もうひとつは、“日常からの逸脱”。
 つまりときメモで描かれるような普通の恋はゲームじゃなくて現実でやったほうがゼッタイに 迫力があります。
 僕なんかは、ふられた時の痛みも含めて今じゃ得した気分です。(「僕の人生を盛り上げてく れてありがとう」と彼女たちに心からお礼を言いたいくらいです。)
 ですからそういう“普通”はたとえニーズがあっても僕はわざわざゲームで表現したくないと 考えました。

4:「商人よ、大志を抱け!」こける:
 ネクストキングの前に「商人よ、大志を抱け!」というボードゲームをバンダイから発売しま した。
 モチーフは海洋貿易。目的は貿易で世界一のお金持ちになること。
 ルールは港Aで商品を仕入れ、港Aからなるべく遠くの離れた港Bで売り利ざやを稼ぐ。その 差益を元にまた別の港で別の商品を仕入れ〜。
 要するにこれをプレイ期間内繰り替えし続け、最後に1番お金を持っていた人の勝ち。
 ただし商品はすべて生鮮食品。1週間で腐って消えます。
 また、商品は1度に有限個数しか入荷されません。つまりライバルの後から港に行っても商品 がないということが起きます。
 さらに商品のかわりに大砲の弾を買い、ライバルの船を襲って奪うというやり方もルールとし て許されています。
 この説明を読めばわかる通り、ボードゲームのシステム部分のゲームデザインは非常に良くで きています。
 ゲームデザインのみの美しさや完成度だけいえば“いたスト”や“桃鉄”に勝るとも劣りませ ん。
 ただし商品としての訴求力は1/10以下。
 値段、グラフィック、演出、発売タイミング、メーカーのイメージ、コンピュータの賢さ、操 作性、イベントの数など…。要するに根本のゲームデザイン以外はすべてが平均以下でした。
 これでは当たりようがありません。
 でも僕は、ひどくあきらめが悪く、条件がきびしければきびしいほどある意味楽しみが増える ほうです。
 ですから「バンダイ」+「オリジナル」+「ボードゲーム」。
 この悪夢のような3条件は次回作でも変えるつもりは毛頭ありませんでした。

5:Nさんの陣取りゲーム:
 当時、ヒューマンにいたNさんから相談を持ちかけられました。
 内容はボードゲームの新しい企画で、簡単に言えば対戦の陣取りゲームのようなモノを考えた のだが、イマイチなので何かアドバイスしてくれ、というものでした。
 そのゲームは面白い部分もありましたが、決定的な問題としてゲームの進行状況や目的のイン フォメーションが抽象的で、つまりは“燃えない”中身でした。
 具体的にどう変更すればいいのかと問われたので、「そりゃ陣取りならそれを国に見立てて、 そこにきれいな王女様をひとりずつ置くのが簡単だわナ。つまり女の子の奪い合い。これなら燃 える!」
 で、どういう展開になったかは忘れましたが、それから小1時間僕はしゃべりまくり、いつの 間にか陣取り要素は消え、NKの原型が姿を現したのでした。
 Nさんはその企画を大いに気に入ったらしく、ぜひヒューマンで作らせてくれという話になり ました。
 企画書を書くのが面倒だったので、「預ける」から適当にそっちで企画書にして通ったら連絡 してくれ、ということにしてその場は終わらせました。
 その帰りの電車の中でさらにいくつかの具体的なアイデアが浮かび、ほぼ今のNKのシステム が頭の中でできあがりました。
 その後1ヶ月くらいしてNさんから「見通しが立たない。」という連絡が来ました。
 …というような話を“商人よ、〜”の打ち合わせの帰りにバンダイのOさんに話したところ、 「その企画書をくれ。」ということになり、NKは実際にスタートしたわけです。

6:企画上の留意点:
 先に挙げた「バンダイ」「オリジナル」「ボードゲーム」という組み合わせに何を加えればウ ケルかを考えました。
 ひとつは言うまでもなく、一度作ってみたかった「ギャルゲー」「恋愛SLG」の要素です。
 もうひとつは「商人よ、〜」の反省から1Pモードの充実、むしろ対戦よりもそっちをメイン にするということです。
 これを実現するために時系列のシナリオをつけることにしました。
 3つ目はボードゲーム以外のジャンルとの融合です。
 これはボードゲームユーザだけでは、大した数にならないと予想したからです。
 で、1番大きな固まりである「RPG」ファンを取り込むべく、おなじみの“剣と魔法”の世 界にしました。
 (この時点ではNKの原点が実は「RPG」だということに気づいていず、ただそれらしいフ ンイキをマネることだけを考えていました。)


 まッ、こうしてNKは今のカタチになっていったわけです。
Alfa・MARS PROJECT