りふれた、ケチ臭い話ほど感動は長続きするような気がする

97/07/01


 ゲームの開発というのは、ユーザーの皆さんが想像するより実際ははるかに時間も手間もかかるものです。 とくに僕の場合は、いばれた話じゃないですが、企画書を書いてから発売まで5年なんてのはザラです。
 これだけの長丁場だと、マラソンランナーに近い心境になることも多々あります。毎度のことですし、 もうバレてますから、いまさら付き合いの長いスタッフが不安になることもないと思うので書きます。
 実は製作期間の真っ最中に、次のような根本的疑問や不安を僕自身が必ずもちます。それも何度もです。

「いったいこのゲームのどこが面白いんだっけ? ゲゲ、忘れた!!」

 やあもう、いつものコトなんで、最近では僕自身もこの究極のパニック状態をなかば楽しむ余 裕ができました。というのも、何度かこの危機的状況に接しているうちに先の疑問の答えがあり そうな辺りにおよその目星がつくようになったからです。
 お恥ずかしい話なんですけど、後から考えると、実は僕の企画って身辺100メートル以内の事柄しか ネタにしてないんです。だから企画書の日付を見て、その前の半年くらいの僕にとって面白かった 事件を記憶から探るだけ。そういえば結婚した、引っ越した、子供ができた、中学時代の友人に会った……とかね。

 たとえば“天外魔境U”ならちょうど結婚した頃です。戸籍の僕の名の前から親の名が消えて、 後ろにはこないだまで赤の他人であったはずの女性の名が記され、おまけに上にはなじみのない“世帯主”の3文字。
 身体的には何ら昨日と変化のない僕は、ある日を境に突如として得体の知れない責任を負ったわけです。
 この戸惑い、あるいは喜びと潜在的には同質のモチベーションで天外Uの主人公は旅立ちます。 またその帰結として物語の最後には、創造主である親との離別が描かれています。もちろんそこには 未来への明るい希望もプンプン漂っています。
 なにしろモチーフが自分の結婚ですし、当時は新婚ホヤホヤでしょ。仲人もあの広井さんなもんで、 ウソでもハッピーじゃなきゃ世間様に申し訳が立たないですからね(笑)。

 これが“リンダキューブ”の頃になると事情は一変。僕の興味は、日々膨らむ妻のおなかに集中してしまいます。 その原因に心当たりはありましたが、『アレくらいのことで』いきなり新たな“生命”が 誕生してしまうなんて……。はやりだからという軽い気持ちで出産に立ち会ったのも失敗でした。 不覚にも感動しちゃったんですね、コレが。

「僕が死んでも僕の血は目の前のこの子に受け継がれるんだよなあ。」

 ウルウル……てな感じでしたかねェ。
 というわけで、リンダのテーマは安直に“種の存続”に決定。PCエンジン版にはネタが未消 化だったせいもあって、エンディングには出産シーンまで入ってました。さすがにマンマで、 ちょっと恥ずかくなったので、PS版では削りましたけどね。

 まッ、いずれにせよ、僕の興味の対象は身近な生活臭にまみれた貧乏くさいモノに限られています。 でもおかげでたとえ忘れても面白さの原点をたどるのは簡単ですし、とりあえず1番興味 のあることなのでモノを作り続けるのに必要なパワーの桁がちがいます。それに妙な説得力まで あるという思わぬ効用もあります。

 ちなみに女の子をライバルと奪い合う“ネクストキング”の元ネタは公開すると、円満な家庭 に波風が立つ恐れがあります。こわいので書けません。どうしても知りたいという方は買って遊 んでください、としっかり最後に宣伝して今月は終わり。

 ほんじゃまた、来月!



プロフィール・近況
 この雑誌が店頭に並ぶ頃には“ネクストキング”も発売されている予定。元ネタからしてけっ こうヤバイのでかなり面白いはずです。プレイしてその辺の事情がたとえよーくわかったとして も、ウチの奥様にはご内密に。
Alfa・MARS PROJECT