28 庵野監督(2) 物をまねるときは、形や仕組みを真似するのではなくて、理念や心を真似なさい、と言う。これは技術者にとっての金科玉条である。理念無き技術は虎と大和を生む、とも言う。
なんのことはない。ハエたたきが必要なときに高い効果があるからという理由で核兵器を開発してはならないということである。
エヴァンゲリオン2がまだ、エヴァンゲリオン2という名前になっていなかったころ、我は複雑さを発生させる原因を求めて庵野監督にお会いした。
その結果分かったことは、アニメというのは監督といえども完全にコントロールできるしろものではないし、実は庵野監督にとって、エヴァンゲリオンは必ずしも完璧な内容ではなかった、ということである。
考えてみれば、我も完璧な仕事などやったことはない。やってないからこそ、今も仕事している。同じことかと思った。世の中は複雑だが、複雑ゆえに複雑でないところもある。
我はインタビュー結果を数日検討し、ゲームデザインを全面改正することにした。 庵野監督の如意でない部分のイベントをオールカットし、ほんとのエヴァってどうなのよという感じで再構成する感じで各部分を練りはじめた。我々の知っているエヴァとはずいぶん形が違うのではないかと興奮した。
今までのゲームは、TVのエヴァや劇場版のエヴァにこだわりすぎて、それを作った心やまなざしを忘れていたのではないか、と考えたのである。 名シーンをゲームにカットインする方式そのものも止めた。
一度会えばプロファイリングは精度が上がるものである。 ビデオを見ればいいようなものを作っても、庵野監督は心の中で小馬鹿にするか落胆して終わるだろうと推定した。この人物は礼をつくして戦うに足るトップランナーであり、そういう人間は形だけ真似すると、100%の確率で、心の中で失望する。ただし表面的には自分の真似だから、文句は言わない。 私の記憶では大学の教授やクリエイターでそういう人が数名いた。まさか生きているうちにまためぐり合うとは思ってなかったので、喜んだのを覚えている。
庵野監督のまなざしの先はなんだろう。 我はそれを追うことにした。それで開発は2ヶ月遅れた。 |