6.基本計画(1) 当時において仮称エヴァンゲリオンとよばれていたそのゲームは、基本計画という青写真が引かれる前の段階で異端児として生まれることが決定していた鬼子 である。
カウンタバッテリーファイアを許さないバンダイの方針と、奇襲と運動戦のスペシャリストであるアルファ、既存のジャンルではうまい表現が不可能と判定さ れた原作が揃ったのだから、これはもう、中途半端な異端では済まされない構造である。 ゲームにおいてその性格の過半を占めるのはその枠組みであり、これは司令官であるプロデューサーの仕事である。参謀であるゲームデザイナーはこの段階で はおまけに過ぎない。
仮称エヴァンゲリオンの司令官を岡本という。 芝村を猛獣扱いし、社長や自らを猛獣使いと呼ぶ天性の反逆者である。 入社以来一貫して主流から外れたタイトルを担当してきたガンダム嫌いのバンダイ社員という、ある意味終わった人物である。
彼はある意味究極の現実主義者であり、現実主義が行き過ぎたせいで常軌を逸したと同僚からささやかれる人物である。
その彼は、就任早々、作戦参謀兼参謀長になった芝村に言った。
「オイラの仕事、もう終わってると思うのよね。これから芝村さんが敵を食い殺す番だと思うんだけど」 おそらく世界最短の引退宣言である。 芝村は岡本の性格を知っている(この人は他人に相談しない)ので反論はせず、変わって口を開いた。
「敵はだれですか。撃って殺せる奴であることを願いますが」 「俺は30万くらいいきたい。邪魔する奴はみんな敵だ。敵は殺せ」 「バンダイの別タイトルが邪魔なら?」 「こっそり殺してください」 「このエゴイストめ」
こうして、作戦上のフリーハンドがアルファ側に与えられた。 |