新世紀エヴァンゲリオン2 開発日記

第2話 聖なる侵入
 アルファ・システムは酒飲みと美食の殿堂である。
昔、これで美女がいれば最高だと社長が発言して、女性社員たちにめった打ちされたことがある。

 我は知っての通り、勝負事>酒>女と、正しいサラリーマン道を歩んでいるので、仕事してください以外の文句は来ないのである。まさに、我に死角なし、である。

 勇者岡本氏が来ると聞いて、我々は全員が戦闘員のごとくケー! と叫んで迎撃準備である。魔王の城に乗り込む勇者岡本の図である。

 もはや仕事どころではない。

 社長と共に昼食を摂り、ビールを飲む。
社長:「岡本さんはハンディ10ですか」
芝村:「いやいや、20でしょう」

 ハンディキャップとして事前に飲んでおかないと公平な勝負にはならないというのが魔王の城のプライド、もといアルファのフェアプレイ精神である。20だから2リットルである。

 こんな人達でも結婚して自社ビル持てるから日本経済は明るいのである。なぜなら我が心には希望があるから。人はそれさえあれば、月にだって行けるのだ。

 さて、岡本氏が遅いので我々二人で仕事していると、連絡が来た。
どうやら渋滞に巻き込まれたあげく、アルファのセキュリティに引っ掛かったとの報告である。

 元々ネタ系だと思ってはいたが、まさかここまでとは。

 仕方ないので会議室に通して突っ込んでやることにする。

社長:「岡本さん、なかなかやりますね」
岡本:「いやー、ミサイルでも作ってるんですか、ここで」
芝村:「いえ、にゃんにゃん共和国のアイドレスですが」

 また静かになる場。
もういやだ。俺は東の果てあるという漢達とギャグだけの大陸に行きたい。

 一転してまじめな話をする。アルファはゲーム業界のどん詰まりの辺境にあり、ここにはさまざまな理由で関東や大阪、福岡では開発不能な案件だけが流れて来る。
 例えば、極端に短い納期。例えば、誰も見たことのないゲームの製作依頼。例えば、特許回避依頼つきのタイトル。技術的に不可能だと決めつけられたカードゲームなど、おおよそ我らが最後の砦として奮戦せねば永遠に世に送り出されないであろう誰かの夢ばかりである。

 世間一般ではそれを不良案件ともいうが、我々の美学は、今、捨てられようとする誰かの夢を法外な金をふっかけてかなえるこの一点にある。

 このため、中には起死回生の一撃として開発を依頼して来る会社もあるし、大手メーカーやライバルハードメーカーの人同士が隣の会議室で商談していることも、決して珍しくはない。まさかの秘密会談が1時間500円で、会議室ごと貸し出されることもある。このため神経質なぐらい機密保持には気をつけている。酒にとんでもなく強い人間がそろっているのは、酒の席で致命的な情報漏洩を防ぐためである。

 と、私が熱く語っていると、社長と岡本氏は既にPDAの話などをするのでがっかりである。

 仕方ないので、本題である評価版の話をする。
ようするにアルファが言うことは、ホントにできるのかを実証するための試作版である。試作版だから長い時間はかけないし、評価する方も相当割り引いて評価するので、さほどこの段階で恐怖することはない。
 まじめに企画書を書いて、設計・施工していればなんの恐れもなく通過する話である。

 今回はフレームそのものが操作系でありAIでもあるIM(インテリジェントマテリアル)の実証実験である。いつか岡本氏と組むことになるかもしれない究極のゲームシステム<オサム1>システムの原型にあたるものである。

 話は20分で終わり、茶飲み話をする。まあ、仕事などそのようなものだ。岡本氏はあまりのスピーディーさに落ち着かない様子である。馬鹿相手に調子に乗ることもなく、自分の仕事を検討するのはいい社員である。バンダイはまじめでいい会社というところか。少なくとも社員教育はなっている。いや、この人の個性かもしれないが。

岡本:「あのー。観光客扱いしてませんか?」
芝村:「いえ、酒のみ競争の対戦相手です」
 我がそう言おうとすると、社長がテーブルの下で我のすねを蹴った。
敵前逃亡のチャンスをつくるな、である。そう、勇者の最後は敵前逃亡で銃殺よりも戦場で雄々しく散るほうが似合っている。

 我はにこやかに笑ってみせた。せりふを練り直す。

芝村:「んなことあるわけがないじゃないですか」
岡本:「なんで棒読みなんですか!」

 そして、社長と共に岡本氏を挟んで立ち上がると、そのまま戦いの舞台に行った。男が相手だとむちゃ出来るので大歓迎である。


次回
「たった一つの冴えたやり方」

お楽しみに。



公式サイト プロデューサー日記 第2話はこちら
'2' 2003.12.12.Fri. 

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