時に西暦2000年 東京都中野区 以下、敬称略。
ビールがうまいと思える夏に、事実上はじめて岡本なる人物と会った。 場所は当時バンダイのゲーム関係を扱う中野区のビルである。 岡本氏はバンダイの社員であり、有り体に言えば年齢の割にうだつがあがらない奴であると芝村機関から一般情報を受けていた。 私は仕事柄、はじめて会う人に関しては必ず情報を集めて勉強しておくことにしている。
今回は社長の随員として登壇である。
単純に言うと、バンダイとアルファシステムの商談のために東京にやってきたのである。 今回運が良ければ一緒に仕事することになるだろうとアナウンスを受けていた、バンダイ岡本氏とはここで初遭遇した。彼はプロデューサーである。
岡本氏はアルファ・システムと付き合うのははじめてではない。「ネクストキング・セガサターン版」で、アルファは一度世話になったことがある。 もっとも、岡本氏と我が直接会ったことはない。ネクストキングの頃の我は諜報網の構築に忙しく、とてもゲームの話どころではなかった。
2000年時においてはガンパレの評価が定まってない頃であり、我はまだ存在そのものが最高機密扱いになっていた。この件に関しては以下のやりとりがある。
「社長、影武者+トラップB名刺でなくていいんですか?」 「かまわん」
これで決った。ひさしぶりに正式な名刺と素顔で表に出ることになった。
ちなみに正式な肩書きは 「第4世代型パワードスーツ開発部特命部長 芝村裕吏」 である。 この名刺を出した時の岡本氏の表情は忘れられない。 文学的な表現をあえて排除すれば
「ああ、ヤバイ人だ」
と目で語ったのである。我はこれが社命であることを言おうとしたが、途中でアホくさくなり、やめた。 こうしてキャラは作られていくのだろうなと思った。
この出会いの前、4月29日に企画書の依頼があり、我は岡本氏に対して企画書を送っている。 依頼の内容はEVAゲーの決定版を出したい。ついてはアルファの目茶苦茶なセンスを期待しているので常識を壊すようなことをやってください、とのことだった。
我はこれに対し、 アルファは数学的かつ常識と良識で形成される会社である。おっしゃるような目茶苦茶なものなど、なにもない。
と、返答している。 この時のメールの返事は
「それです。その目茶苦茶な回答が欲しかったんです。これだこれだ」
である。だから俺は常識で語ってると言っているだろうが。と怒った覚えがある。 が、しかし、岡本氏はどういう訳だかいたく機嫌が良く「天啓ってあるんだなあ」と非科学的な返事を出してきて我が社を騒然とさせた。
さて、この要請に対して企画書を送ったところ、サブジェクト名「これは宇宙語でしょうか」「でも面白いんで話すすめましょう、解説お願いします」と、メールがあり、ついてはこの顔あわせになった次第である。
企業と我を捕まえて宇宙語はなかろう。いや、宇宙人語だったかもしれないが、どちらにしても常識と良識の代理守護者と日本人をつかまえておいて失礼な話である。 これで会社的に問題にならなかったのはアルファの社長、佐々木哲哉が
「いやまあ、俺も芝村を最初に見た時はそう思った」
古参の企画部員櫻井の
「俺は未来人だと思ったね」
と、口々に社内で裏切りが発生したためである。 あ、いや、その後呑んだ席で「我は常識人だ。俺の目を見ろ。さあ、見ろ」と岡本氏には詰め寄った覚えがあるので、問題にしなかったわけではない。
さて、岡本氏とバンダイに出した企画だが、この名を「仮称エヴァンゲリオン」という見たままのものであった。しかし、大事なのは名前ではない。中に搭載された機能とメカニズムである。 この中には2000年最高のゲームシステムとして設計されたものが入っている。
基礎技術=メインエンジンはカレル3。 カレル2=<ガンパレに搭載されていたAIシステム>の後継にして、新たに建造しなおした、新たなるアルファのフラグシップシステムである。 カレル3はPS2用に新規建造された全域同時性をもつゲームシステムである。 無矛盾に同時描写して応答の大部分をシナリオではなくコンピューターに委譲した、カレル2譲りの応答性はそのままに、さらに一瞬の描写ではなく”流れ”という概念に着目して、より自然な行動描写能力を形成したものである。
この他、後のnew−システムとは違う、作家性という観念で新たに設計されたゲームマスターAI、構造そのものがAIになっているAIフレーム、10000を越える記憶受容体を駆使した思考の連続性など、当時最高の技術の数々をつぎ込んだつもりである。
そしてエンジンの性能を引き出すようにして作られたのが、これぞエヴァンゲリオンと言われるために設計した「システム名E」すなわちエヴァフレーバー復活計画とその実行システムEである。 フィルムと当時の雑誌、ネットから復元したあの当時のEVAの雰囲気と感覚を再現するゲームシステムである。
だがそんなものは、所詮前座に過ぎない。 特筆すべきは(長いので省略、1時間分くらいある)
と説明し、そのためにドンっと、「カレル3への招待」とギャグセンスの足りないと言われる我にしては愉快な題名をつけた書類を出した。
あの時、なぜだか場が暗くなったのだが、あれはなんでだろうと今でも思っている。我としてはあそこは盛り上がる場所だったはずなんだが。
まあ、それはさておきと、イマイチふに落ちないセリフで話が打ち切りになり、そのまま、とりあえず制作しましょうという話になり、我は進む商談をつまらなさそうに聞いた。 まあ、応答は予想範囲外だったが、展開は予想通りということで、その日は納得した。
岡本氏と、その時同席したスタッフ達とはそのまま酒を呑みにいった。 向うが食事に行きましょうと誘ったのである。
この時社長は爆笑した。そして口を開いた。
「僕たちに食事などと言う婉曲的な表現は存在しませんよ。呑むんですか、どうすんですか?」
岡本氏は言った。 「いや、まあ、飲みますよ」
社長は真顔でいった。。 「アルコールファンシステムの社員とその統領を捕まえて良く言った」
一方、我はこの言葉を聞きながら、岡本氏という人物に初めて好印象を持った。 この時点で我の気持ちは、岡本氏をプロデューサーとして認めよう、である。ゲームのために命(急性アルコール中毒)を賭けられる人間はざらにない。貴方は我らを使うに相応しい。
その夜、業界にあまねく知れ渡る伝説のアルコールエリート達の輝きを彼は見たに違いない。
(続く)
次回予告 第2話 聖なる侵入 「へっ、勇者様がきたぜぇ?」 「あぁん!?」
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