多分、どうでもいい存在の私を守るために、あの人は、迷うことなく命を賭けた。 自分が夢で思い描いた通り、いやそれ以上に、あの人は、いい男だったのだ。
次に浮かぶイメージ。 走る大木くんの脇腹から、血が吹き出たのと自分が叫んでいる。 泣くことしか出来なかった自分。 叫ぶことしか出来なかった自分。 オドオドすることしか出来なかった自分。
女だから、それは許されるのか――否。断じて否。 私はあの時、死ぬべきだった。なにも出来ずに生きるよりは。
あの日あの時あの瞬間、手の届くそこに、多分、自分の命よりも価値のある人物が、居たのだ。
3.
佳々子は、横たわったまま、砂を握り締めると、何度も地面を叩いて号涙した。