「戦場に出ることになったな」
低い男の声だった。善行が顔をあげると、ジャングルジムの上には少女がいる。
長い髪に弱い陽光が落ちる。低い雲を背にした、それは幻想的な光景だった。
「……貴方は?」
「誰でもいい」
「寒くないですか。その格好は」
「我は寒さを感じない。それに体温をあげている。母体も大丈夫だ」
「何を言っているんですか」
少女は、何の表情も浮かべていなかった。
「お前は死ぬ」
「……まだ決まったわけではありません」
「そうだ。誰も彼も反逆する権利はある」
善行は、指で眼鏡を押した。
「あなたは、なぜそれを?」
「お前は面白い。まず私の身体を心配し、次に質問に対して答え、最後に論理的な疑問を口に出す。お前のような状況では、普通逆の順番で受け答えをするだろう。希なパターンだ」
「……私の分析に来たのですか」
「いや、誉めたのだ。お前は、他人のために生きて、死ぬ。その一方で自分自身のために何もなせないし、何も出来ないだろう」
「それが、誉めているのですか」
「そうだ。 誰でも出来ることではない」
少女は、天を仰いだ。目を細め、歌うように口を開く。
「私はこのようなところでも、シオネの欠片を見ることが出来る。そのたびに思うのだ。戦わねばと」
少女は、目を大きく見開くと、善行を見た。
「善行、戦場へ行け。今は、そこが一番安全だ。そこで生き残れ。時間を稼げば、内田がどうにかする。あれはそういう男だ」
「貴方を信用する理由がありません」
「私はもう助言した」
少女は、なんの感情もない瞳で善行を見ると、ジャングルジムから飛び降りて、背を向けた。
もう用はないと、背中が語っていた。 |