ガンパレードマーチ・外伝

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終幕
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 夜が、訪れようとしていた。長い長い夜が、これから来るだろう。



赤すぎる夕日。

 天地のことごとくの幻獣に死を降ろし、女は、風に髪を取られて血に濡れたカトラスを地面に打ち立てた。
 神殿の丘にあがるかのごとく、瓦礫の山に登りつめ、そして、女は、涙を流した。

「心が戻ったか」

 無表情に、なんの抑揚もなく言う少女。低く沈んだ男の声。
手に落ちた涙をにぎりしめ、善行を見下ろす。

「そろそろお別れだ。善行。希望の種はまき終えた。我はまた新しい世界に行く」




 荘厳なる夕日の元で、瓦礫の山の頂点に立つその少女は。

胸に下げた青い宝石を、そして巨大な手を振って、今にもその姿を消そうとしていた。

「あなたの名前を教えてくれますか」
 善行は、言った。

 振るう手をとめたまま、その女は、口だけを動かした。
「我は名前のない男だ。知る必要はない」
「……覚えていたいのです。私が抱いている、友情のような想い出のために」



 名前のない男と名乗る女は、目を虚空に向けたまま口を開いた。
「……我は、反逆者。天と地の理に異を唱え、反逆するもの」
「悪魔には見えませんが」

「……されど神でもなし」
 名前のない女は、最後に笑うと、手を振るって崩れ落ちた。
青い宝石が、天に昇る光の柱となって消えていった。

善行は瓦礫の山に上りつめ、昼と夜の狭間の、茜色の天空を見上げた。
 その名を呼ぼうと思っても、善行は名前を知らないことを思い知る。



 高らかに声が聞こえた。それは歌うような優しい声。
「時の終りでまた逢おう。友よ。英雄の介添え人」

善行は不意にあふれ出た涙を流しながら天に叫んだ。
「なぜ最初から私たちの味方をしなかった! それだけの力がありながら! なぜ我々を見殺しにした!」

 声が、優しく善行に届く。
「そして幻獣を殺すのか? …どちらも命だよ。善行。復讐のために何かを殺せば、残るのは死体が二つだけだ。差し引き0ではない。マイナス2だ」

 声が、遠ざかる。
「……善行。お前が部下達のために泣くように、敵の死にも、責任をもつがいい。それが、生きるということだ。我は、そなたの命にいくつもの命より価値があると信じた。ただそれだけだ。それが正しいか、どうか、それは時の終りで証明されよう」



善行は声をからして叫んで、何度も土くれを叩いた。
泣いた。

「……なぜだ! なぜ僕が生き残る必要がある! 皆、いい男達だった! 僕が言うオンボロの正義を信じて死んだ男達だった。……なのになぜ、僕が生き残る! なぜただの大学生を生き残らせる……そんなに価値があるのか。僕に! 答えろ……! 友よ!」

 返事は、なかった。



 限界まで開かれて、涙あふれる善行の眼鏡に、天から降る青い光の粉が、映った。

雪のように。






善行が、泣き叫ぶ。

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CLOSE …………

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 善行の叫びを聞きながら、若宮は、力を失った少女を抱き上げた。
少女の眉毛が動くのを見て、若宮は、小さくうなずいた。

それはただの少女すぎて、どこに絢爛舞踏がいたのか、もう、分からなかった。



若宮は唇の端をかむと、目を細めて青い光の粉を見上げた。



光の柱が、消えていく。

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CLOSE …………………… OK






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