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「それがお前の運命への反逆のつもりか。……善行。ただ30分作るために死ぬのが、お前の反逆なのか。それで死にいく者が赦すとでも思ったか」
奇妙に崩れ残ったビルの上に立つ少女は、無表情のまま口を閉じた。
無表情の少女は、目をつぶった。
口を開く。
「無理なのだよ、善行。我らはもっと苦しまねばならぬ」
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さわやかな風が吹いた。
善行が顔をあげたそこには、無表情の少女がいた。
善行が何かを言う前に、無造作に手を右にあげてサブマシンガンを撃った。
血を吹き出し、穴だらけになって、足を折って倒れるキメラ。
「ほめてやろう。お前の力ではなく。その勇気を。部下達の心を」
少女は、細い脚を交差するように退くと、無表情のまま、レーザーを避けてみせた。
腕を伸ばして、サブマシンガンを撃った。
無造作に見えながら、的確な射撃で次々急所を射抜かれて死んでいくキメラ達。
「だから私は……」
少女は、戦死した兵士から剥ぎ取ったカトラスを抜いた。希望も絶望も、何処か遠くに置き忘れた目。
喜びも悲しみも、何も感じていない目。
絶望的に見える巨大なヴィーヴル。それを堂々と見下して、女は善行に言った。
「そなたの部下の夢だ」
ヴィーヴルの拳を左右に避けて、女はカトラスを振るった。
足の腱を切られ、ひざまずくヴィーヴルの目に、カトラスが突き立つ。
「あなたは……一体……」
「知る必要はない」
女は、言った。
後ろに目があるかのごとく、レーザーを避け、上半身をひねって射撃する少女。
奇妙な踊りのように見える、その体が動くたびに、幻獣の死が量産されていく。
「レーザーを、避けるのか…人間が…ただの人間が?」
「お前が、思っているよりも、人は、強い。圧倒的に。特殊な力も、奇跡も必要ない」
少女は、無表情のなかに、無理矢理笑顔を作った。
「人に、そのようなものは必要ない。人はその方が似合っている」
絶望的な大きさに見えるヴィーヴルの群れを、絶望的な戦力差をまったく無視して、少女はカトラスを無造作に持ち直した。接吻するかのように敵に歩み寄る。
イィー。
少女が飛んだ。ヴィーヴルの腕を駆け上がり、至近距離からサブマシンガンで頭をぶち抜く。踏み台にしてさらに飛ぶ。同士討ちを誘い、回避から返し刃。また死が量産された。
イィー!
何の音だと思った善行は、その瞬間、自分が恐怖で叫んでいることに気付いた。
口に手を当てる。震えが止まらない。化け物。人の形と力をした化け物。
その少女の瞳、無表情のはるか底に青い光が瞬いていた。死を量産する毎に、青い光があふれる。青い光の中を乱舞する、死を呼ぶ少女。
今、武器を捨て、素手でヴィーヴルの眼球をひきずり出し、指でキメラの関節をひきちぎり、倒れた兵達の身体を盾に、落ちたカトラスを足で拾い、地形を利用して動き始める。
体格も、数も、それまでの戦術、兵器も嘲笑い、一人の女が蹂躙する。
「……」
幻獣の頚動脈にカトラスを突き立て、吹き出す血の霧でレーザーを無効化すると、少女は一斉に下がった幻獣達にゆっくりと脚を進めた。
若宮が、呆然と声をあげた。
「絢爛舞踏……あれが、絢爛舞踏なのか」
青い宝石を揺らし、背を向けた無表情の少女は、善行を流し目で見た。幻獣達が下がっていく。
その瞳は青い光の海の中にたたずむ、善行を映す。
「いつか、世界が変えられないかと言ったな。……いいだろう。お前にそのチャンスをやろう。我はそなたの運命に介入する。生きて死者達に顔向けできる世界に変えてみせろ」
少女ははじめて、少女の声で言った。
「そなたの代価は、幻獣達の血と、そなたの部下の血で支払おう」
殺戮が、はじまる。
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