気づけば独り言を言っていた。
「くそったれ、この戦争は最低だぞ。なにが悲しくて美少女と戦わにゃならんのだ」
 敵対する艦隊の名を、彼女達自身は美少女による銀河帝国という。硬い(ハード)なことで知られる太陽系連邦政府公文書は、この冗談のような名前の扱いに苦慮し、平和条約が結ばれていないことをいいことに、勝手にネーバルウイッチと呼び習わしていた。
多くの人知類がそう聞いてなるほどとうなずくほど、女だけで美人しかいなかった。

「それは差別だよ。歩くともよ」
 遅れて入ってきたイルカ知類の人形パイロット、エレが人工音声で言った。
そのまま長い鼻で少佐の胸先をつつきながら言う。
「ネーバルウイッチが聞いたら怒るだろう」

 思えばこのエロイルカも人知類の女好きだった。少佐はシニカルに笑って見せる。
「そうか。そりゃいかんな」
イルカは無表情。
「いかんな。はやく戦争を終わらせて欲しい。噂によればこの間間違って通信が敵艦に繋がったんでネーバルウイッチ嬢にそういう話をしたところ、向こうもにっこり笑ってそうですねと言ったそうだ」

 戦場の噂と言うのは、兵の願望である。実際にそういうことがあるわけではない。エレも、みんなも、そんなことくらいは分かってる。だがみんな、噂こそを信じたがっていた。

「はやく戦争、終わらんもんかな。俺はイルカ以外と話したい」
「まったくだ。私も女性の水着に鼻をつっこみたい」
「イルカってそれで訴えられないところがいいよな」

 いつものように行われる漫才のような軽口の交換、笑う奴もいれば瞑想するやつもいる。
少佐が目を付けた一人は、震えていた。少佐は大げさに震える兵の肩を叩く。宇宙空間で鍛えてなければ骨折しそうなくらいの威力。

 震える相手は赤い肌に緑色の髪と瞳をしていた。火星人だ。
「はじめてか?」
「はい、少佐殿」
「おお、俺のことがわかるのか?」
「はい。有名ですから。かの有名なハリー・オコーネル氏と並んでいると」

 火星人が震えながらもちらりと笑うので、少佐はにやりと笑った。
「そりゃ腕の話か、それとも悪運か?」
「部下を生かして帰る名人と聞いております」

ふん。と少佐は笑った。
「折角の大宇宙だ。一人で過ごすにゃ広すぎるのさ」

無機質な女性の声が聞こえる。アナウンス。
”減圧完了しました。乗り組み開始”

 少佐は優しく笑って火星人に言った。
「おしゃべり終わり。じゃあな新兵。次の漫才が見たけりゃ生き残れよ」
「はい。少佐」

ブザー。

<了>


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