それは、再会を待つ心であった。それがいつになるか分かりはしなかったが、万難を排し、それが嘘偽りないただの事実であると告げるために待ち続ける存在だった。
 いくつもの生命を渡り歩きながら、それは何千年も待っていたのだ。そしてこれからも、ずっと待つだろう。それは万物の心の上に浮かびあがる一つの幻想だった。

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 加藤遼子が髪をピンクに染めたのは、先祖のためではない。
自分がその生き方を、選んだためだった。

先祖のためやない。ウチはウチらしくやるだけや。

と、自室にすえつけてある鏡に自分の顔を映して考える。にこーと笑ってみる。あんなに嫌いなピンクの髪だったが、にっこり笑うと思ったより似合う気がした。

うん。美人はなにをしても似合うもんやな。と考える。

 それにしても。遼子は考える。
自分で言うのもなんだが、加藤屋の初代というかご開祖さんは、ほんまもののアホやった。

いつか、遠い遠い友人が再会のためにやってきた時、絶対の絶対に間違えたりしないように、子孫の髪を強制的に染め始めたのである。まるで嫌がらせであった。
 それから250年。もはや太陽系中でピンク頭を見たら加藤屋の係累と見て間違いない。
というくらいになっている。その友達がだれかよう分からんが、もうどこに現れても絶対一人は当たる勘定であった。アホもいくところまで行けば尊敬と感動の対象になる。ここ最近50年では新しく宇宙植民地を作るので一族の誰かを送ってくれとメールが来るほどだった。

鏡に思い出が映る。

あんなー。そんなものいつくるんや?

 遼子が小さい時、母に尋ねると、母はハリセンの手入れをしながら不敵に笑ったものだ。
「いつか来るわ」 母親は言った。

だからいつー? 尋ねる遼子。


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