「分かってたら、面白くないやろ? だから秘密や」

今思えば、母もそれがいつなのか、知らなかったのだろう。遼子はそれがおかしくて、笑った。

よっしゃこい。

の気分である。明日、学校で笑われるかも知れないと思ったことは、忘れることにした。
それよりも約束を破るほうが、どうしようもないと思った。加藤の誇りはどんな友人をも見捨てないことだと考えた。

思えばおかんもそんな事思ったんやろな。きっと代々加藤屋の娘はそう思うのだろう。

そう考えて鏡を見れば、自分の後ろに何千人もの加藤達が並んでいるように見えた。
母も母の母も、その母も全員が自分の後ろに立っていて、いつかは自分もそこに並ぶのだ。ハリセンをもって。堂々と。万に一つの引け目もなく。
俗にBALLSのいない昔からといえば大昔のことだが、その頃から加藤は加藤だったのだ。

あ、今、うちはおかんみたいに笑ったな。どこか優しい、不敵の笑顔で。

確かにそうだ。アホもいくところまで行けば尊敬と感動の対象になる。確かにウチのご開祖さんはほんまもののアホやったかもしれんが、その子孫達はアホやない。わかってそれをやろうとするからには、それを全力でやるからには、それはアホではない。芸だ。

 遼子はいつか、その友人に再会したら、思いっきりハリセンで叩こうと思っている。
その後で抱きしめるくらいはやるつもりだ。

<了>


Back   Index