揺れるシャトルロケットの中。
未だ、大ではないカトー・タキガワは空をロボットで飛ぶ夢を見ていた。
“少佐?”
「うん? すまん。寝てた」
目をこする。心配そうに顔を近づけていた女性型アンドロイドが、微笑んだ。
太陽系総軍が愛を込めてかれんちゃんと呼ぶ、軍専用モデルだった。
過去幾多の戦いで彼女と同系統に助けられたか、分からない。
“少佐でもそういう時があるんですね”
くすくす笑うかれんちゃんに、少佐は子供のように笑ってみせる。
実際、光速の25%の速度で飛んで帰ってきたので、客観年齢より少し若い。
「からかわないでくれ。俺は生身だ」
“少佐は他の人たちより、我々に近いと思いますよ?”
「そりゃ光栄だけど、どこが?」
“少佐は戦争が嫌いです”
「なるほど」
職業軍知類ほど戦争嫌がってるのは自分の命がかかってるせいかな。それとも、敵がどんなものか知ってるせいかなと少佐は考え、かれんちゃんと笑いあった。
正面の席に座る同席者、見た目はどう見ても人知類にしか見えない光国人が白眼でこちらを見ていた。軍の輸送艦に便乗した光国の大使だった。少佐は最初、相手を異星人と知らずに、ジュースなど勧めたものだった。
「なにか?」
少佐の言葉に光国人は口を開いた。翻訳機などは使わない。そもそも彼らは、機械を使わない。
<いや……不可思議に思えた。貴殿らは自らが作った道具と笑いあい、敵と戦うことを嫌がりながら常勝する>
大使が使ったのは完璧な古代日本語だった。この光国人は未だ国交どころか宇宙にも出てなかった20世紀の地球にボランティアで駐留していたことがある。
「良くは分かりませんが、昔の人知類は、違いましたか?」
そう尋ねる少佐に、光国人はうなずいた。
<昔はもっと、真面目だったような気がする>
首を捻って考え込む少佐を、かれんちゃんが笑った。
“そういえば少佐は、お見合いのために帰られるのでしたね”
「そういうもののために休暇をとるのは不真面目なことじゃないぞ。大事なことだ」
“というのは名目で、実は飛行機を飛ばしたいだけだって、みんな話をしてますよ”
みんなというのは、アンドロイドたちのことだ。アンドロイドネットワークの情報の速さと正確さたるや、人知類の及ぶところではない。
苦笑いする少佐。くすくす笑うかれんちゃん。 静かにその光景を観察する光国人。