窓を開ける遼子。
「お、追ってくるな! 来るなぁ!」
「ほんとにそれでいいのか」自転車をこぎながら、タキガワ少佐は言った。

遼子はうなった後、ぽろぽろ泣いた。ひどいいじめだと、思った。

「なんでそんなこと言うの? お見合いしにきたくせに」
「だからといって可愛がっていた従妹とお茶するくらいは出来るさ」

 それじゃ嫌だ。1年かけて立てた当初計画とぜんぜん違うことを考えて、遼子はタクシーを止めさせた。ワンメーターだった。

 料金を払って、すわり心地は最悪だが抱き心地はいい自転車の後席に移る。
それが幸せだと遼子は思った。認めたくはないけれど。

「うちが一番や……うちが一番に来たんやで」恩着せがましく主張する遼子。
「分かってる」振り返らないカトー・タキガワ少佐。二人乗りで坂道をあがるのは大変だった。
「だったら特別扱いしいや。その、“親友”ほどじゃなくていいから」遼子は頬を少佐の背につけて言った。心臓の音、きこえへんかなと思う。

カトータキガワはため息をついた。口を開く。空軍の新型機のようなじゃじゃ馬ぶりだ。
「分かった分かった」

遼子は怒ろうと思ったが、小さなころ、海岸で兄ちゃんといいながら彼の後を追いかけていた自分を思い出して、顔を赤くした。その逆を今日やったことについて、それでうちの勝ちだと思って、多少のことは多めに見てやることにした。

<了>


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