自転車を漕ぎながら、タキガワ少佐は飲む携帯の着信を受けていた。
あわてて出る。

(俺だが、今いいかね?)
頭の中に浮かんだ声は、しぶいおっさんのものだった。
人知れずずっこける少佐。

(俺は今、たぶん一生の問題で全力で自転車漕いでるんですよ)
ゴーグルをつけながら、少佐は思う。口を動かさなくても携帯はつながる。

(そうか、じゃ、公務ということにしてくれ)
電話の声はそっけない。頭の中に映像が浮かぶ。
 浜辺が見える執務室。壁には太陽系総軍の旗がはりつけられている。
結構なデータ量をくった仮想空間だった。

 軍服姿の少佐は、バツが悪そうにネクタイを緩める。
実体はタクシーに併走している。

(どうしたんですか。親父(おやじ)さん)
 少佐は頭をかいた。参ったなあ。最悪のタイミングだぞ、これは。

執務室の椅子から立ち上がったのは一人の老境にさしかかった男だった。
このとき、中将であるジョージタフト。将帥として大変な支持を兵士から集める男だった。
(いや、少佐の話を聞きたくてね)
(俺は噺家でも牧師でもありませんよ)
 少佐は立ったまま言った。
(俺はパイロットです)
(だが正しい事は言う……なんだなんだ)
ジョージは顔をしかめた。少佐は鼻息を荒くして口を開いた。
「ほんとにそれでいいのか」


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