ジョージは腕を組んだ。
(そりゃ誰に向かって言ってるんだ)

 少佐は頭を片手で隠した。
(いやもう、本当に取り込んでたんですよ)
(女か)
(ええ。かわいいかどうかはともかくとして)

ジョージは少佐を無視して窓の外を見た。
一瞬電話切ろうかなと思う少佐。

厭戦(えんせん)気分が、広がっているな)ほんとに無視して口を開くジョージ。
(前線では、そうですね)あきらめる少佐。年寄りはだから……
(年寄りはだからなんだ)背を向けたまま、ジョージ。

タイムラグのせいで3秒反応が遅れる少佐。
(うわ、聞こえてましたか)

背を向けたまま舌を出すジョージ。
(……いや、40年前のわしもそう思ってたことを思い出しただけだ。……後方はどうだ。少佐。娑婆の方は。今地球だろう)
(かわりはないですよ。相変わらずです。戦争やる気まんまんです)

ジョージの表情は見えなかったが、曇っているであろう事は、修羅場中の少佐にも想像できた。

ジョージは口を開く。
(帰還兵が世論を変えてくれると思っていたが。このままでは前線の士気のほうが先に崩壊するぞ。ネーバルのお嬢ちゃんにはファンが多い。Fとだってだ。まったく我々は、誰だって好きになれるよなあ)

少佐は、いや、遼子は違うぞと思いながら口を開く。
(士気で戦う時代なんて、100年も前に終わっていますよ)
(そうだな……)

 ジョージは目を伏せた。
現代の戦争は巨大なシステムだ。個人の心根も思いもまるで関係ない。
機構や機械が……BALLSが考えて、そして戦争を遂行する。

それでいいのか。いいわけがない。少なくとも、孫が戦場に出てきたら本当に嫌だと、この中将は思っていた。そもそもこの人物もネーバルウイッチは嫌いではない。命をかけて対峙する敵であっても、いや、だからこそジョージは尊敬もすれば理解もしていた。


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