その日の朝、加藤遼子は殊の外恥ずかしいピンチであった。
見知らぬ布団の中で目を覚まし、ううんと伸びをする。

そしてそこが、思い人の家であることを思い出した。親戚だけど。
それにしても彼女にとっては、大赤面である。

「い、いつ寝たんや。うち」
 しまった。もっと色々、話したかったのにと思う遼子。損したー。と心の中で叫ぶ。
聞こえるのが嫌だったので、心の中だけの叫びであった。

ピンク色の髪の寝癖を見られたら嫌だと思い、手で押さえながら目を走らせる。
誰もいない。 いや、居たら今頃恥ずかしさに心停止していたかもしれない。

そろりそろりと、廊下に出て、洗面台に行き、口をゆすぐ。着替えるより先に口臭が気になり、寝癖が気になり、ついでに言えば、少しでもかわいく見えるよう、鏡の前で手早く百面相した。

 鏡に映るのは寝巻き姿である。ニンジンが無数にプリントされている。
そもそも、なぜかわいい寝巻き姿なのか、考えて真っ赤になる遼子。よろける。

おちつけー。おちつけー。と髪を乱し、鏡の前で手をついて荒い息をする遼子。傍目から見れば変態である。

 気分を取り直し、お兄ちゃんを探す。居なかった。ちょっと、がっかりする。
もっとゆっくりしてればいいのに。いいや、うちに挨拶の一つもせんのはひどい話や。

ぶーたれながら頭の中で飲む携帯のスイッチを入れる。メールが一通。お兄ちゃんからだった。
 10秒ほど身もだえした後ドキドキしてメールを開く。心の中で文面が読み上げられる。

“これから少し準備して仕事にいってきます。 盗られるものなんかなにもないから、鍵はあけたまま出て行ってかまいません。 追記 やっぱり、遼子は夜更かしできないな(笑)”

メールを3度読んで、こらぁ、乙女家にとめといて色気が足りんぞと心の中で叫ぶ遼子。
いや、色気一杯では全然らしくないけれど。と、思う遼子。
顔を紅くしてもう一回メールを読んだ。思えば奴にしては優しさにあふれてると思いたい。特に最後の(笑)のあたり。


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