その後で重要な事を思い出し、彼女が全速で一旦実家に帰ったのは、10時前である。この頃実家では遼子の父と母が、揃ってお茶をすすっていた。

 遼子は、ドキドキである。なんと言おうか考えたあと、あ、あの、ただいまと言った。

「ああ、おかえり」
 そっけない母。3Dテレビの声が笑ってる。

留学先からタキガワ家に直接行って、夜遅くに帰るといっていたのだが、朝帰りである。
親からどう言われるか恐れていたが、両親共に、何もいわなかった。

「あ、あのうち、いつのまにかお兄ちゃんところで、寝てしもうて」
攻撃?から身構えるようにして言う遼子。

「ああ。そうやろな」
母親。TV見ながら煎餅食べる。

「あ、で、でもなにも変なことはなかったから」
手をばたばたさせて説明する遼子。

 母親はやっと遼子を見た。やけににこにこ笑ってる。
「うん。それは知っとる。そういうのは絶対無いわなあ」
「な、なんで!」
 こらー親ならもっと心配せえとこれまでと逆のことを思って言い返す遼子。
母親はふふんと笑い、組んだ手に、あごを乗せた。

「あんな。カトー君。年上好みなんよ。すごく」
涙目になる遼子。なんとなくそれは知ってた。 嬉しそうに笑う母親。

「ほら、やっぱりなにもなかった。ま、背伸びもたいがいにせんとな」
「ま、まだ振られると決まったわけやないもん!」
「時間の問題ですなぁ。ほら、向こうはお見合い、あるし」

遼子は、ぽろぽろ泣いた後、イケズーと言って走った。口に手をあてて高笑いする母親。
隣で頭を抱える父親。

「いいのかい、かあさん。あんなこと言って」
心配そうな父親の背を、母親は笑ってぶったたいた。
「いいんです。遼子はああでもいわんと、分かりませんからなあ」

<了>


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