その日の朝、未だ大ならぬタキガワは殊の外ご機嫌であった。
にこにこしている。

 多くの整備兵達は、少佐は新型に乗れるから嬉しいんだにゃと思った。

「今、ラダー(はしご)を用意しますので、お待ちくださいにゃ」
「ああ。ありがとう」
 差し出されたチューブの飲みものを受け取り、すするタキガワ。
すすった飲み物は、カツオブシの味がした。

 タキガワは飲み物を渡してくれた、少年に見える整備兵を見た。爪を出し入れしている。
かわいい耳が、揺れた。
 見渡すと、見渡す限り、耳が揺れている。眉が揺れるタキガワ。

タキガワは節度を守って、舞台が猫少年と猫娘と本当の猫知類だらけだったことには、コメントをしなかった。 だからどうした、という気概もある。自由と言うものの中には固まっている自由も、ある。それに口出しするのは、自由を愛する知類らしくない。
 もっとも、個人的には色々な種族が混じってたほうが、楽しいと思う少佐。思えば人間ばっかりだったロンリータイムズは、さぞ気持ち悪かったろうなと、思う。どこを見ても人間ばっかりだった時代には、友達も似たり寄ったりだったんじゃなかろうか。

タキガワが黙っていると、別の整備兵が、寄って来てニコニコ笑って口を開いた。
猫娘だった。

「少佐、変わったことに気づきませんか?」
 目をきらきらさせながら言う。小さな鼻をゆらして笑う。尻尾はぴんとたっていた。

「あー。なんだろう。俺には思い浮かばない」
 少佐はここでも、節度を守った。
そんなことにはまるで気づかず、両手を広げてくるくるまわるつなぎを着た猫少女。
「今日、ベースヨコタにいる全部の猫の繋がりが集まってるんです」

タキガワは驚いたふりをした。
「あー。なるほど、どうりで猫が多いと思ったよ。頼もしい限りだ」
嬉しそうに笑う猫娘。
「みんな、少佐を見に来たんです」
「……なんだろう」
 本当に不思議そうな顔をする少佐。意味が分からない。
もっと嬉しそうに笑う猫娘。
「少尉候補生のクララをご存知ですか」
「……うん? ああ。あの耳が倒れた猫か。覚えてる。……それが?」
「少佐が命懸けで助けたことを、私たち嬉しく思ってます」
 猫には猫の在郷団体がある。きっとあの少尉候補生……今頃少尉は、きっと故郷に連絡したんだろう。それを聞いて、猫は動いたわけだ。 律儀だなと思って、口の端をほころばせる少佐。

「戦友を助けない知類はいないよ。まして俺は人だ」
「でも嬉しいです。毎日集まってもいいくらい」
 猫娘や猫少年は年齢固定型である。実際はいくつか分からないが、少佐は、昔幼い従妹にしていたように、その頭を無意識になでた。
「そうか。じゃあがんばって、そうするようにしないとな。俺も、……皆も」
「はい……あ、ラダー準備できました」

ありがとうの合唱。タキガワは背中が痒いような足取りで機体の前まで行く。
膝をついた機体を見上げ、ラダーを昇る。


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