本来無人機であるところに無理矢理コクピットを増設したその機体は、グラマスなスタイルの上に胸が大きい。
名前を、試製士翼号。まだ本格生産に入っていない新型もいいところの機体である。
「機体も喜んでいますよ。少佐を乗せるんですから」
「お世辞でも嬉しい」
タキガワは士翼号をぽんと叩くと、機体に身をすべりこませた。
何百年も前から付き合ってきたような感覚に陥り、タキガワは微笑んだ。
「ただいま。ようやくまた逢えたじゃないか」
“少佐、なんですか。それは”インターコムで話しかける整備兵。
「おまじないだ。おまじない」
タキガワはコクピットを閉めるスイッチを押した。ラダーが取り外される。
機体に乗り込んだその後の彼の瞳は、青くなる。この日も、奇麗な青い色をしていた。
インジケーターが一斉に点灯する。なにもかも手入力の応急操縦装置、タキガワは、笑ってそれを手足のように動かした。 それが太陽系で作られたものであれば、どんな乗り物も、彼の手足の延長となった。
タキガワ家240年の伝統が生み出した文字通りのお家芸は、この人物によって完成されたと称される。
タキガワは鼻歌を歌った。
“豪華絢爛たる光の舞踏の前衛にして親友、先駆けたるカトー・タキガワ。参る”
“なんですかそれは”
質問する無線に、タキガワは何も答えなかった。既にその心は機体に乗り移っていた。
軽やかに機体を立たせる。走らせる。トップスピードから軽く跳躍。
ロケットに点火。非武装のその機体は推力重量比1を超えているのでほとんど垂直に上昇、1分半で2万m上空に跳ね上がり、その身を入道雲の上に躍らせた。
身体を捻り、上半身の挙動をチェック。肘の部分からストレーキ、白い線を引いてタキガワは18Gからの推力回転から逆落としにパワーダイブに入る。
エアブレーキのついてない人型機は6000mからの引き起こしでも危険である。
Gに押しつぶされて肺から空気が漏れる。タキガワは口を笑わせて、空気を逃がした。
タキガワは、規定を完全に無視して4500mから推力を絞らないで引き起こし始める。
手足を広げ、その翼面積と強度をざっと計算して、後は勘。
航空機の計器では高度0mにあたる60mを大きく割って、士翼号は機体を引き起こした。
士翼号も嬉しそう。軽く地面にタッチして、そこから全力水平飛行に入った。
ソニックブーム(衝撃波)で周囲1kmの庭の洗濯物をことごとく吹き飛ばし、舞うシーツを全弾回避してタキガワは飛んだ。
地上の猫達が耳と尻尾を立ててびっくりしている。
“こりゃご機嫌だ”
<了>