上官の名を、エリザベスという。総軍きっての切れ者の突撃艦艦長で、豪華絢爛な美女として知られる人物だった。
今は、教導突撃艦の艦長であり、4隻からなる突撃戦隊の指揮官でもある。

 エリザベスは少佐を横目で見ると、何げない口調で言った。
「で、女はなんと言ってたんだい?」
「訳分かりません」

 しばらくの沈黙。

沈黙を破ったのは、顔を赤くした少佐だった。
「ひっかけましたね」
「それがどうかしたのかい?」
「いいえ。何も」

エリザベスは軽く笑ったが、それ以上は何も追求しなかった。

「んで、聞かせてもらおうか。どうだい新型は?」
「いいですね。体当たりするのが目的の簡素な機動機雷とは思えない」
「そりゃ外れでもないね。上はアンタの働きを見て、気をかえたよ」
「どういうことです?」
「本格的な小型機動兵器部隊を編成するってことさ」

タキガワ少佐は口笛を吹いた。 その顔を横目で見るエリザベス。
「うれしく無さそうだね」
「うれしいですよ。そっちは」

エリザベスは腕を組んだ。

「口論する女にろくな奴はいないよ。別れちまいな」
「そんなんじゃありませんよ」
「素直に私と付き合えばいいのさ」

少佐よりエリザベスは12歳は年上である。少佐は考えた後、横目でエリザベスを見つめ返した。
「再婚する気になったんですか?」
「亭主なんか人生で一人いりゃ十分さ」
「じゃあなんで」
 エリザベスは口をとがらせた。
「からかわれてることくらいには気づけ、“少尉”」

口をとがらし返す少佐。
「だったら言わせてもらいますがね“大尉”、あなたは出会った時から不真面目すぎるんですよ。だから出世が遅れるんだ」
 エリザベスは胸を誇示するようにして言った。
「それで年下にいこうってのかい?」
「そんなんじゃありませんよ」

視線を外すタキガワに、獲物に噛み付くことに成功した虎のような表情で満足げに首をかしげるエリザベス。
「ふうん?」
「本当ですって」
腕を組んで、つぶやくタキガワ。不器用に話題を変えようとする。
「あー。それにしてもよく人形の機動部隊編成する気になりましたね」

苦笑して、いつもそうであるようにエリザベスはタキガワを許した。
「そうさね」

機動兵器部隊がこれまで編成されなかったことには、訳がある。
それは質量=サイズだった。宇宙空間では、サイズが大きいほど機動力があるとされる。慣性の法則が取り分け多く影響する宇宙では、推力の大きさと燃料の量が機動力を決めた。
 したがって高機動部隊と言えば、大型艦が基本だった。

<続く>


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