「写真も顔も、今時自由にいじれるから意味がないのさ]
 エリザベスは、この時代の正論を口にした。伝統があるゆえに割と保守的な人知類はともかく、新参の、それでも多くの知類は百五十年の伝統がある……は、相手が好きなら相手好みに変えればいいだけと思う風潮が強かった。

時計を見るエリザベス。
「そろそろ時間だね。それにしても、なんだってこう軍人がおおいんだい」
「我々もその軍人ですよ」
 気の無い返事のタキガワ。
確かに、廊下を通るのは軍人ばかりである。

「それにしても、軍人が多い」
面白く無さそうに腕を組むエリザベス。
このころ別に珍しい訳でも無く、エリザベスは死んだ亭主が軍人だったから軍人になった部分が多分にあり、軍への帰属意識自体は低かった。軍人になる以外、遠い星のかなたに赴任する亭主の側にいる方法がなかったのでそれをやっただけなのであった。
 ジョージ・タフトが最低接触戦争をはじめてこちら星間戦争が恒常化し、そういう例が、増えている。

 お客様がいらっしゃいましたと、控えめな声に反応して背筋を延ばすタキガワ。タキガワを肘でつつくというよりどつくエリザベス。

 タキガワの目の前に、いかつい軍服の男十人ほどが立った。
口をあけて見上げる、タキガワとエリザベス。

「タキガワ少佐ですね」
リーダー格の男が言った。寒そうな顔をした、憲兵大尉であった。

うなずくタキガワ。
「確かにそうですが」
 憲兵大尉は民間人相手用のコードをタキガワに送る。
「連絡した中井戸です」
 飲む携帯でコード受信して、うなずくタキガワ。
「それはどうも。同業とは思わなかった」
「我々は知ってました。少佐。知選については、慎重に慎重を重ねたもので」

 厄介そうな話だなと、タキガワはみじろぎする。
憲兵大尉はうなずくと、十人ほどの軍人たちが囲みを解いて、知目から守っていた一人の女性、というより少女をタキガワの前に座らせた。

 黒い髪、黒い目。編んだ長い髪。整い過ぎている割に、妙に表情豊かというか、ドキドキしている感じの顔。変な感じの衣服。
 どこも似てるところはないくせに、遼子も中学生になりたてのころはこんな感じだったなあと思うタキガワ。雰囲気が似ていたのだった。

 自らの膝の上に指が白くなるほど握った手を置き、何かしゃべろうとして、顔を爆発させたように赤くして、周囲の軍人たちを見る少女。

 エリザベスは眉をひそめて口を開いた。
「この娘は?」
「アプル・モウン艦氏族・デモストレータだ。年齢は140になる」

眉をひそめるだけでなく、目を細めるエリザベス。
「地球じゃあんまりきかない名前だね」

 エリザベスの言葉にうなずいた憲兵大尉は、口を開いた。
「その通り、彼女はネーバルウイッチだ」


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