黒い髪、黒い目。編んだ長い髪。整い過ぎている割に、妙に表情豊かというか、ドキドキしている感じの顔。変な感じの衣服。
 自らの膝の上に指が白くなるほど握った手を置き、何かしゃべろうとして、顔を爆発させたように赤くして、周囲の軍人たちを見る少女。

周囲の軍人たちは、少女を力づけるようにうなづいて見せた。

頭をかくその見合い相手。
「えーと。アプル・モウン艦氏族・デモストレータでいいのかな。140歳」

140。俺のじいさんも生まれていたかどうか怪しいなと考える未だ大ならぬカトータキガワ。初めて見るネーバルウイッチはとても華奢で、腰に手を回せば、いや、俺は何を考えている。

 なんだか微妙に舞い上がってるタキガワに腹を立てたか、尻を思いっきりつねり、エリザベスは口を開いた。
「ネーバルウイッチ、ま、戦争相手ということは、こいつは捕虜だね」
「そう呼びたくはないが、そうだ」
 ネーバルウイッチを囲んでいた軍人の一団、そのリーダーそうな男がうなずく。名前を、中井戸と言った。髪を短く刈り上げた、真面目そうな士官である。

「上の意向じゃないね。 どういうつもりだい。捕虜だったら」
「研究施設にいれるか、犯罪者のように幽閉するか」
 中井戸は淡々と言った。
「捕虜交換がある」
 言い返すエリザベス。首を横に振る中井戸。
「ネーバルウイッチは拒否した。失艦者に居場所はない」
 アプルから涙が落ちて、周囲の軍人たちは涙を受けとめるためにほぼ同時にハンカチを差し出した。

 珍しくもないが、めでたい奴らだねえとは、エリザベスの反応である。男ってのはどうしてこうパッケージに騙されるんだかと考える。
 非難の視線を感じてか、咳払いする中井戸。
「とはいえ、このままずっと捕虜を続けさせるわけにもいかない」
「なぜ」
「知生は貴重だからだ。塀の中で奪われていいものではない。彼女はもう、生まれ変わることも、冬眠することも、できないのだから」

 エリザベスは何か同情めいたことを言おうとするタキガワに肘鉄食らわせ、ぶっ飛ばして口を開いた。
「敵だろ、知ったことじゃない」
「殺すために軍人をしてるのか、我々は?」
 中井戸は、腰を浮かしながら言葉を続けた。
「違うだろう。我々は自由の旗のもとでそれを守護するために銃をとったのだ」
 カビの生えた念仏のような大義名分だったが、この時代信じる者が大変多い言葉を、中井戸は言った。皮肉めいて口に出す者も、あえて言わない者もいたが、多くの知類は、暗い宇宙の中で、放射能が吹き荒れる戦場で、だからこそ心の底からその名分こそを信じていた。後、エリザベスにしてもこの名分を貫く為にただ一隻で辺境銀河の全部を相手にして戦うことになる。
ジョージ・タフトが苦悩しながら守ろうとするもの、それが彼らと、その心の上にある幻想だった。


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