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 場面は、戻る。

信用のないタキガワと何も分かってなさそうなアプルは、並んで中庭に面する縁側に座っていた。
 何が面白いのか、足を揺らしているアプル。

 タキガワは、自分に信用がないなどとは思いもせず、口を開いた。
「……お見合いの先って知ってる?」
「幸せになるんですよね。ナカイドが言ってました」

 やっぱりなと、タキガワは思った。そんなことだと思った。
「中井戸と会えなくなることが、幸せなのかい」

 揺らす足が止まった。恐れるような瞳で、タキガワを見上げた。

「な、なんで……」
口を開くアプルに、タキガワは優しく口を開く。
「君ともう二度とあわなければ、中井戸は君が幸せになれると思っている。……まあ、たまにそう考える奴がいるのさ。待ってるほうにとってはたまったもんじゃないけどな。……太陽系の知類ってのはバカなんだよ。ロンリータイムズの頃よりも、たぶんずっともっと、バカなんだろう」

 だがそれを悪いとも思わないのが、この時代の人間の常である。この考えが衰亡するまでは、戦争終結を待たなければならない。

 タキガワは笑って空を見上げた。
「どうする? 幸せの定義は人それぞれだ。中井戸の言う幸せに、乗せられるのも手だ」

 アプルが泣いたので、タキガワは、笑った。昔、自分が自分をお兄ちゃんと呼ぶ子を泣かせたことを思い出した。 口を開く。
「だったら走れ。今なら、間に合う。宇宙戦艦には乗れなくても、多分頑張れば乗り越えられる距離だ。場合によっちゃエンジンがついているかついてないか、そんなことも考えないで動かなきゃいけない時がある。……それは今だ。いいな」

 アプルは立ち上がって、高重力に慣れていない足で走りだした。途中立ち止まって、タキガワを振り向いた。

「あ、ありがとうございます」
「いや、礼を言うのは、多分俺だよ」
 自分の考えが、まとまったから。

タキガワはそう言って、待つことにした。
それは来るかも知れなかったが、ずっと来ないかも、知れなかった。

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でもいつか、それは来るとタキガワは思ったのだった。

そうして、一人、お茶を飲み、日向ぼっこした。

 庭の垣根が破れ、タクシーが突っ込んでくる。
タキガワは落ち着いてお茶を飲み干すと、手をあげた。

 笑ってみせる。

この話は、これでおしまいである。
この先は、見なくても、きっと分かると、思うから。

<了>


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