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「お、お待ちなさい!」

ののみを肩車して階段を降りる瀬戸口は、振り向いた。

 顔を真っ赤にした灰色の制服の女性を、見る。豊かな黒髪だった。
自分でも似合わないと思っているのか、胸元のリボンを痛く気にしている。壬生屋だった。

 瀬戸口はどこか皮肉そうな笑顔を壬生屋に向けてみせる。
そんな表情も様になる、すみれ色の瞳だった。

「どうかしたかい?」
「あ、あやまりなさい! 無礼者」

「ふぇ? えっとね、たかちゃんわるいことしたの?」
「さあな、覚え違いじゃないのかい? お嬢さん」

 壬生屋は何かを言おうとして顔を真っ赤にした後、ほとんど聞き取れない声で言った。
「乙女にたいして、う、後ろから抱き付いた……でしょう」

「ああ、それか」
 瀬戸口は、優しく笑った後、冷たい目つきで言った。

「文句があるなら、最初から言えよ。後になってわめいたりせず。それと、子供の前ではわめくな。どうしてこんな子がとか、 ここにいるべきでないとか、言うもんじゃない」

そして口元だけを刻薄そうに歪めた。

「それにしても自意識過剰だな。俺が好きでお前さんみたいな奴に触ると思ったか? もう少し格好に気を遣ってから言えよ。 服が顔と体型と髪型に似合ってない」
「めーなのよ。たかちゃん。ひとのわるくちはね、いってはいけないのよ」
「そうか」

瀬戸口は破顔した。
「それもそうだな、気をつけるよ」
「うんっ」

「じゃ、これで。悪かったな。俺達は遊んでくる」
 瀬戸口とののみは揃って敬礼みたいな真似をした。
上機嫌で階段を降りていく。

壬生屋は拳を握り締めた。

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教室では、滝川がライオンを見たいと言っていた。
 次の瞬間、全員が何事かと顔を廊下に向けた。

すさまじい足音だった。
 そして教室のドアが激しく開けられた。

豊かな黒髪を振り乱し、顔を真っ赤にして唇をかんだ壬生屋だった。
涙まで浮かべている。

 滝川と中村と速水が、開いたドアを見た。
舞は、横目で見た。

「芝村さん」
「なんだ」

「あのことを、覚えていますか」
「なんのことだ」
「私に対して服装は自由だと言った件です」

「覚えている。それがどうした?」
「いえ、それだけです。確認したかっただけ」

壬生屋は、顔をぬぐうようにして袖で顔を隠すと、家に帰って泣こうと思った。



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下の騒ぎを無視してブータはプレハブ校舎の屋上で座り込んでいる。
髭を揺らして、周囲の風景を見る。

咳き込んで、そして風に頬を揺られた。

「シオネアラダ。偉大な詐欺師よ。貴様のついた嘘を、まだ信じていた娘がいたよ」

声が、つまった。

「貴様は本当に、偉大な嘘つきだったのだな。青の青も、わしも、ずっと騙されていた」

ブータは目をつぶって、はらはらと涙を流した。

「だが貴様の嘘ももう終りだ。わしが死ねば、終る。死んだらまた嘘をつこう。我らこそ豪華絢爛たる光の舞踏。光の軍勢と」



<次回につづく>