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/*/ 「お、お待ちなさい!」 ののみを肩車して階段を降りる瀬戸口は、振り向いた。 顔を真っ赤にした灰色の制服の女性を、見る。豊かな黒髪だった。 瀬戸口はどこか皮肉そうな笑顔を壬生屋に向けてみせる。 「どうかしたかい?」 「ふぇ? えっとね、たかちゃんわるいことしたの?」 壬生屋は何かを言おうとして顔を真っ赤にした後、ほとんど聞き取れない声で言った。 「ああ、それか」 「文句があるなら、最初から言えよ。後になってわめいたりせず。それと、子供の前ではわめくな。どうしてこんな子がとか、 ここにいるべきでないとか、言うもんじゃない」 そして口元だけを刻薄そうに歪めた。 「それにしても自意識過剰だな。俺が好きでお前さんみたいな奴に触ると思ったか? もう少し格好に気を遣ってから言えよ。
服が顔と体型と髪型に似合ってない」 瀬戸口は破顔した。 「じゃ、これで。悪かったな。俺達は遊んでくる」 壬生屋は拳を握り締めた。 /*/ 教室では、滝川がライオンを見たいと言っていた。 すさまじい足音だった。 豊かな黒髪を振り乱し、顔を真っ赤にして唇をかんだ壬生屋だった。 滝川と中村と速水が、開いたドアを見た。 「芝村さん」 「あのことを、覚えていますか」 「覚えている。それがどうした?」 壬生屋は、顔をぬぐうようにして袖で顔を隠すと、家に帰って泣こうと思った。 下の騒ぎを無視してブータはプレハブ校舎の屋上で座り込んでいる。 咳き込んで、そして風に頬を揺られた。 「シオネアラダ。偉大な詐欺師よ。貴様のついた嘘を、まだ信じていた娘がいたよ」 声が、つまった。 「貴様は本当に、偉大な嘘つきだったのだな。青の青も、わしも、ずっと騙されていた」 ブータは目をつぶって、はらはらと涙を流した。 「だが貴様の嘘ももう終りだ。わしが死ねば、終る。死んだらまた嘘をつこう。我らこそ豪華絢爛たる光の舞踏。光の軍勢と」 |
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