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/*/ 血塗れた日曜に出会ってしまった。 ピエロの休みは幕間までの10分間。 天に弧を描く身体を休め、空を見ていた。 −*− 中村は低い声でことさら陽気に歌うと、懐から靴下を出して鼻にあてた。 −*− 僕は知ってしまった。楽園なんかないことを。 だからどうしたと、今なら思う。 −*− 準竜師の目にとまるように、掲示板にピンで靴下を止めた中村は、自分の背中をつつく指に気づいて歌うのをやめた。 間抜けなことに殺気がなければ凡人以下の反応しかできないのだった。 中村は振り返った。誰もいない。下を見て、冷たい表情を作り物っぽい笑顔に変えた。 「どぎゃんね。ののみちゃん」 中村はののみの豊かな想像力に微笑んだ。 「そうか。またえらくサラリーマンのごたるペンギンねえ」 ののみは、嬉しそうに笑った。 「えへへ。ののみのおはなしをきいてくれるのはうれしいな」 「そ、それはまたあれねえ」 中村は股間に両手をあてて猛烈にうずくまった。 「ふえ?」 「じゃ、そういうことで、こんどは委員長のところへGOだ。さっきのば話してやると喜ぶよ。きっと」 /*/ 中村は、腹を押えたまま建物の影に入ると、痛みの表情を能面のような無表情に戻した後、3分ほど待った。 そう、彼は<それ>になるとき、いつも無表情になる。 それはなぜか。良心の痛みかもしれない。嘘をつく悲しみかもしれない。だが、それは心のそこから沸き上がる暗い情念、 陰火かもしれなかった。 それは、<それ>が生まれる時に産道を通る時に発生する必然的な痛みに耐える彼なりの儀式だった。 その狭い隧道を通るたびに、彼は思う。これでいいのか。 中村は、にっと笑って背筋を伸ばした。もはや膨らんだズボンを隠す必要はどこにもない。 突然手で顔を隠し、笑い始める。何が面白いのか、それは自分でも分からない。 「新しい匂いが俺を待っているみたいじゃないか」 中村は涼しげな流し目でどこからともなく現われた準竜師の横顔を見ると、皮肉そうに口元を歪ませた。 「まあいい。依頼は達成した。Mr.B。ここからは、俺の好きにさせてもらおうか」 「瀬戸口には壬生屋をつけている。壬生屋は天然の阿呆だ。なんの処置をしなくても奴の任務達成を邪魔するはずだ。
瀬戸口は……、奴は壬生屋やののみを危険にあわせるようなことも、悲しませるようなこともできない」 中村はウインクした。 「俺達はソックスハンターだ。匂いを嗅ぎ分けるのは、俺達の専門。違うか?」 /*/ 僕は知ってしまった。楽園なんかないことを。 だからどうしたと、今なら思う。 ピエロの人生は舞台の上。あとは全部捨ててもいい、ただの現実。 /*/ 中村は背を向けるとスポットライトが照らされたかのように顔をあげた。不敵に笑う。 世間体の風、変態に対する風、常識の風、本編を読みたい読者の風、物理的な風、その全ての風を押しのけ、中村は走る。 走る。走る。 それが己の生きる道。ああ、ここから始まるのはリタガン外伝にして、一代の風雲児の生きる物語である。否!
堂々の開演である。
目指すは一つ。秘宝、カバの穿いた靴下。 甲高い音。 抜けるような青空に白い航跡。ミサイルの上に爪先で立って、蛇のような男が、スバラシィィを連呼してくる。 着弾。爆発。 中村は爆風に跳躍し、身体を何度もひねりながら向こう岸に着地した。 中村が立って背中を振り向くと、炎の中から踊る人間が現われた。
セクシーポーズを取って蛇のような男は中村の前に立ちはだかった。 「その脈絡のなさ、伏線0のひどく唐突な出現の仕方。……ソックスバットだな?」 セクシーポーズを連発する蛇のような男に対抗し、中村は何故か上着を脱ぐと、シャツをびりびり破って上半身裸になった。 ああ、なんと言う変態。これだ、これが原作者と作者はやりたかった。 岩田が紫色の口紅をあやしく歪めて絶叫した。 睨み合い。 次の瞬間、中村と岩田は同時にセクシーポーズをとると、ほぼ同時にズボンの中に手を突っ込んだ。 「決闘の赤い靴下ですねぇぇぇ!」
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