![]() |
![]() |
![]() |
/*/ 一方その頃、休憩所のベンチ。 耳の奥に何かの音がしたのか、副官ウイチタ更紗は縦巻きロールの髪を揺らして顔をあげた。 「……結局そうなるのよね」 そして皮肉そうに言った。 「嫌な男の臭いがするわ。私からあの人を奪う、アドレナリンの匂い」 目をぱちくりする琴乃の頭に優しく触れて、ウイチタ更紗は自らを包むワンピースを掴んだ。天に放り投げる。 その下から純白の制服が現われた。 短い砂嵐の音の次に、クリアな音声が流れてくる。 顔を伏せたまま、更紗は形の整った唇を動かした。 更紗が顔をあげる。鬼もかくやという表情。 更紗は腰の軍用拳銃を引き抜くと、初弾を装填した。 /*/ シーンは戻る。 中村は飛んだ。 中村は鉄柵を蹴ってさらに高みに跳ね上がると、赤い靴下を黄金に輝かせながら叫び声をあげた。 岩田は下から突き上げるように蹴り上げた。跳ね上げた脚が額につくほどの驚くべき柔軟性を発揮する。 その跳ね上げた足の先には赤い靴下が装備されていた。銀に輝く。 金と銀の激突。 光が奔流になり、二人の男の顔が、至福に包まれる。そしてお互いの顔に、赤い靴下が当てられた。 強烈な匂いにもんどりうって落下する二人。着水音。骨の折れる音。 波紋が消えると、そこには二つの立ち上る泡だけが残っていた。 2分1秒目、水面が、割れた。 「その匂いのきつさ。洋ものだな」 銃声。 「そこまでよ。変態ども。逮捕します」 中村と岩田が同時にセクシーポーズを取った。 更紗の口紅を乗せた唇がおぞましく動いた。 「なんだ、結局いつもの痴話喧嘩か」 拳銃が撃たれた。 「逃げると間違って心臓を撃ち抜かれるわよ」 「嘘だ、よけなければ死んでるぞ!」 最後の一言は、部下に対して言った台詞だった。 中村は岩田と背中あわせになった。 二人の男は、同時にセクシーポーズを取った。 「ええい!なんで下がる!」 涙目になった女子高生達は三歩下がった。 「フフフ、いいですね。逃げる靴下。最高です!イィ! スゴクイィィィィ!」 不発だった。 中村は両手に靴下を握ると、俺が主人公の回にオマエら目立つなと叫びながら、女子高生を追いかける岩田を 追いかける更紗を追いかけた。 /*/ 一方その頃。 その日の仕事を全部終えた準竜師が、両手に余るポップコーンを抱えて戻ってくると、まばたきをした。 ワンピースを大事そうに抱えた琴乃を見たのである。 「更紗はいないのか?」 そして琴乃の頭をなでた。 「まったくそなた一人を置いていくとは困ったものだな。ジュースでも買ってくるつもりか」 琴乃は喉を鳴らした。抗議の声をあげているのだった。 「……そう怒るな。……まったく、女と言う女は皆、更紗の味方をする。たまには俺の味方はおらんのか」 琴乃は頬を膨らませた。鰓も少し膨らんだ。 準竜師はポップコーンをほおばると、琴乃より頬を膨らませてみせて、琴乃を笑わせた。 /*/ シーンは戻る。 銃が当たらないと見るや、更紗はグレネードランチャーに持ち替えて撃ち始めた。 白煙を噴きながら次々とグレネードが射ちこまれ、爆風と破片が次々と大地と建物を傷つける。 二人のソックスハンターは悪夢から抜け出たピエロのような凶々しさでそれを避けきってみせた。
爆風を背中に受けて吹き飛ばされ、それを推力にして池を越えてみせる。 「死ね! ソックス!」 「フフフ、逆ギレの上とばっちりですね」 更紗は、瞳を怒りに輝かせた。 「女は好きだぜ。靴下はもっと好きだがな」 更紗は肩撃ちミサイルを取り出した。 この爆発は遠くまで見えた。善行と、幻獣共生派が同時に敵の攻撃だと思った爆発がそれだった。 更紗はロールした髪を振り乱すと、ミサイルランチャーを投げ捨てて細身の軍刀を抜刀した。 「死ねえ!ソックス!」 否、間一髪でその打撃は中村が受け止めていた。 更紗の瞳が揺らめいた。 「…出来るなら、私だって男に生まれたかった。男としてあの人の隣に!」 普通の人間ならなんであんなトカゲ顔がこんな美人に好かれるのだと発作的に自殺したくなる状況。しかし、
ソックスハンターの反応は違った。 更紗は縦巻きロールを揺らして斬撃を放った。 連続斬撃。岩田の服が、破れた。 「本気ですね!」 中村と岩田は叫んだ。 そして次の瞬間逆襲に移った。両手に靴下を持った岩田の攻撃をかわした瞬間、中村が低空を飛んで
赤い靴下を投げつけたのだった。 次の攻撃が来ると更紗はガードしながら一瞬目をつぶった。来ない。 振り向く。 二人のソックスハンターは既に逃走していた。 「ソックス! ソックス!イィ! スゴクイィ!」 中村と岩田は口々に靴下を賛美して走った。 更紗は歯噛みして無線機のスイッチを入れる。
|
![]() |
![]() |
![]() |