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 一方その頃。

 とぼとぼと更紗は歩いていた。炭で制服と顔が、汚れていた。
ベンチのところに戻ってきて顔をあげれば、ベンチで準竜師と琴乃が並んで座ってる。

 琴乃が更紗に気付いて、声をあげた。

 準竜師はゆっくり更紗を見る。

 更紗は、なさけないやら悲しいやらで、下を向いた。汚れた顔を見せたくないのだった。

 5秒考える準竜師。

「どうした?」
 準竜師は、何事もないように言った。
更紗は握りこぶしを握る。馬鹿にされていると、更紗は思った。それでも仕方ないと思う。

「申し訳ありません。道に迷っておりました」
「そうか」

 準竜師は更紗を守るように動こうとする琴乃の頭をなでた。そのまま喋る。
「早く顔を拭け。汚れているそなたの顔を他人に見せるのはしゃくだ」
 今度は準竜師の真意を、更紗は理解出来た。顔を真っ赤にしてハンカチを探した。

「……はい」
「それとワンピースだ。言い忘れていたが、ワンピース姿のそなたは、割といいように思う」
「割とですか」
「いつも良いからな」
「……冗談が好きな癖に」
「嘘は嫌いだ」
「貴方のお顔は、どちらがどちらだか分かりません」
「政治向きだからな。琴乃。腹が空いたか?」
 琴乃は嬉しそうに声をあげた。
言葉は分からなくても、二人の交わしている意味は、なんとなく分かったからだった。

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「さて、そろそろ伝説の秘宝の靴下を頂くか」

 中村はにっこり笑って岩田の死体に近づいた。
目を開く岩田。
「まだ死んでませんよ!」
「あら、正式登場前に死んだキャラとして伝説に名を残すかと思ったのに」
「それは確かに魅力的ですね……違う!」
「それは残念だ」

 中村と岩田はカバを降ろしてやった。

 そして少年のような瞳で、カバの後ろ足を二人して見た。

「フフフ、どこに靴下があるんですか?」
「どうでもいいばってん、お前どこからその情報得たとや?」
「そりゃもちろん、盗聴ですよ!Bが動いた時点で仕掛けてみました」
「あいつは元ソックスハンターだろうが」
「貴方もいました」
「さよか」

「ありませんねえ。あるのは包帯だけですよ」
「あ……」

 中村は、馬鹿のように口をあけて、ののみが豊かな想像力を持つことを思い出した。そう、 将来は小説家になりそうなくらいに。

 彼女にはカバの足に巻いた包帯が靴下に見えたのだった。
脱力する中村。

「フフフ、誤爆ですね! イィ! その表情イィ!」
「お前も同じだろうが」
 岩田はくるくるまわった。

「フフフ、私の場合、嫌がらせすればそれでいいのです!」
「しまいにゃ殺すぞ」

 遠くで火事の音。煙が、ただよってくる。
大きく口をあける中村と岩田。

「で、このオチ、どう思う」
 岩田は煙を吐いた。
中村も煙を吐いた。

 そして、二人して笑った。

 立ち上がる中村、カバに悪かったと言って、頭をなでてやった。
「さて、休憩に戻るか。ピエロの休憩だ」
「フフフ、そうですね。もうしばらく逢うことはないでしょう」
「そうね」

「この煙、幻獣だな」
「レーザーですね」

 中村と岩田は、お互い握手するかどうか考えたが、結局何もしなかった。背をむけて駆け出していく半裸の中村。

 岩田は薄く笑うと、反対側に歩き始めた。
 ポケットからカバの靴下を取り出した。包帯保護のため、カバは特別サイズの靴下をつけていたのである。 あの時カバが倒れてこなかったら、水中で取り上げることはできなかったろう。

 岩田は、にっこり笑った。スキップして家に帰ることにした。


第11回 了

(次回から外伝に戻ります)