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<人族の母親が息子に伝えた話から、序文>
<猫神族に伝わる古い伝承>
時は、少し戻る。 猫が怒っているような声に聞こえなくもないドライヤーの作動音。 「ねこさんねこさんはきれいだねえ。しろくてきんいろであかくてもえてるの」 泡で汚れた上着を脱いで、髪をラフに束ねたののみは、にこにこ笑って言った。ひっかかれて細い腕には 赤い筋のような傷が走っていたが、気にしていない。それでも優しく振る舞える人物だった。とても痩せていたけれど。 「きれいだねえ。うれしいなあ」 /*/ ブータはののみの手で、その身をののみの私物であるかわいいドライヤーで乾かすと、その身を映す鏡で、 新たに染め直されたように見えるチュニックを見た。 そのチュニックは火の色をしていた。 /*/ 目はその生を現すという。 ブータの瞳は、細くなり、太くなり、そしてまわった。 記憶が飛ぶ。 この頃多い派手好きが打ち立てた壮麗な宮殿で、ブータは遠い未来と同じように、面白くない顔をして行儀良く座っている。 そして口を開いた。 「無毛のお前はともかく、私は、美しい毛皮に覆われている。マントなどいるか。こんなものがなんの役に立つ。 どうせくれるというのなら、猫用の剣でも兜でもくれればよかろう」 「さてな」 /*/ 「運命だな。ユリウス。運命だな」 ブータはラテン語で言った。 「運命を定める双面の剣は、時に味なことをする」 /*/ 鏡に映るブータの瞳は、細められた。 また記憶が飛ぶ。 満開の桜の樹の下で、古い切れ切れのマントを短いチュニックに直してもらったブータは、それを着せてもらって、 桜の樹の主人である少女に深々と頭を下げた。 首を横に振る少女。目は、見えていないが、見えていた。 少女は優しく笑って、死んだあの子の声色を真似た。 「ありがとうねこさん。僕の友達よ」 瞳の形がかわる。ブータの丸い瞳は、涙を落した。 /*/ 鏡に、青い二つの光が映った。それは猫の額の下にうるんでいた。 「ねこさんのめのいろはきれいだねえ。あっちゃんもおなじいろなのよ。くらければくらいほどあかるくひかるの」 髪をラフに束ねたののみは、にこにこ笑って言った。ひっかかれて細い腕には赤い筋のような傷が走っていたが、
気にしていない。それでも優しく振る舞える人物だった。 「あれー、でもまえもこのいろだったかなあ」 ブータはにゃーと優しく鳴いた。 /*/ プレハブ校舎一階の前を、岩田が両手を大きく振りながらスキップしていると、岩田は電波を受信したかのように横を向いた。 最近食堂のように使われている空き教室に顔を出す。 ののみが、いた。傍らの大猫が耳を立ててこちらに注目している。 「なぜか今日はシオネクローン9番ですネ!」 岩田は、舌を出したまま首をひねった。岩田を見ないように、聞こえないように耳を塞ぎながら、別人や、 やっぱり別人やとつぶやく傍らの加藤。まわる岩田。 「くろーん?」 「フフフ、猫にやられましたね? 化膿をしてはいけません。注射しましょう」 おびえて後ずさるののみの横にいた大猫が、ののみをかばうように静かに前に出た。 猫が牙を剥く前に、加藤がハリセンで岩田の横っ面を叩いた。微動だにしない岩田。 動かなくなった岩田を見た後、ののみを見て、加藤はののみを抱えて逃げ出した。 岩田が血を流しながら追ってきた。速度を上げる加藤。 「フフフ、僕が突っ込んだのを見て、さらに突っ込むのが貴方の仕事でしょうぅぅぅ!」 七色の光をあげて派手にころがる岩田。そして二度三度転んだ。 /*/ 「それはかまどの女神が鍛え上げたる不滅の剣にして、人民を守る最後の砦」 ブータは前脚を伸ばすと歌を謡い、七色に輝くリューンの防壁を張った。 防壁にあたって岩田が弾かれ、また弾かれた。
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