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/*/ その士魂号の下で、あるいは士魂号につかまって跳躍を共にしながら、巨大な40mm高射機関砲を担いだ一人の兵士が、撃って撃って 撃ちまくっていた。 来須である。 来須は帽子を被りなおすと、一人黙々と、善行の命令を守り、己の誇りを守り、舞への思いと、そして速水への敬意を守るために
戦っていたのである。 歩兵部隊の各小隊長達は巨人の戦いぶりに見とれたが、次に巨人の足元で歩兵の本分を完遂する来須の戦いを見て我に返り、めいめい部下に 命令を下しはじめた。 「巨人の後に続け! 戦友を助けろ。我々は勝つぞ!」 /*/ 来須の隣で、ストライダー兎は前足を伸ばすと、拳銃の引き鉄を引き、ゴブリンの一匹の脳天を叩き割った。 ストライダー兎が少し頭を下げると、来須は頭を振って帽子を被りなおした。悪い夢だと思った。 /*/ その戦いで神話の中に踏み込んだ者も、それなりにいた。 腰の抜けた倉木の前で、身の丈よりもはるかに巨大な剣鈴をぶん回し、空中戦でヒトウバンを叩き落した赤い短衣を着た猫ブータが着地し、
また目の前を飛んでいく。 倉木小輔はあわてて無線機を取り出し、必死に上官に報告しようとした。 倉木は愚かな部下に対する呪いの言葉をきいた後、上官の言葉を聞いた。 倉木が泣きそうに顔をあげると、無線通信が終わるまで倉木を守っていた黒猫が一匹、にやりと笑い、腰の抜けた倉木を置いて また戦場に戻っていった。 /*/ 赤い短衣が風に揺れた。着地すれば青い波紋が広がる。そしてその戦神は飛んだ。青い軌跡を残し、ビルの壁を蹴り上げ、さらに高く、
老猫は魔法の歌を編み上げると、空中を迎撃するキメラのレーザーを片前脚でかわし、着地と同時に竜殺しの剣鈴で一刀両断にした。 その紅は旗印。神々が本来居るべき場所に帰ったことを天上天下に誇らしく轟かせる確かな証であった。 /*/ その戦いで本格的に神話の中に踏み込んだ者も、少数ではあるが、いた。 腰の抜けた倉木の前で、雷の球をぶんまわし、空中戦でヒトウバンを叩き落した、頭の上に小さな蜘蛛を乗せた白犬が、心配そうに 倉木を覗き込んだ。 倉木小輔は呆然と無線機を取り出し、淡々と上官に報告しようとした。 倉木はひどい呪詛の言葉をきいた後、上官の命令を聞いた。 白犬は気の毒そうに尻尾を振ると、明瞭な日本語で言った。 そして犬は、戦場へ戻った。 倉木は言った。 「では戦おう。俺達はまた、うまくやれるはずだ」 /*/ 戦場においても一際騒がしい声がする。 「どけどけどけどけ! 援軍到着だ!」 「速水ぃ! 俺は助けに来たぞ!」 動物園からこちら参戦を続ける猿神族が、その足元で煙草を吸いながら言った。 /*/ 移動するトラックの中で、一人の少女が不意に顔をあげた。 「エステルヴァラオームイスラボート」 ののみはつぶやいた。 「エステルヴァラオームイスラボート」 /*/ 「エステルヴァラオームイスラボート」 神々の合言葉が戦場に届いた。種族の違う神々が互いを呼び合う。 堂々たる口上を述べるとミトリは甘いものがついた指をなめた。 その様子を見た猫神の一柱が声をあげた。 /*/ 神々の援護を受け、士魂号はおびただしい武勲を叩き出していた。否、今もなお伸ばしていた。戦場のどこにあっても、見上げればそこに
呼吸するように敵に死を振りまく巨人が居た。 太刀を片手に士魂号が手を振る。舞うように。 神々はそれを見上げ、一斉に声をあげた。 /*/ 神々は一斉に魔法の歌を歌いだした。一糸乱れぬ統制で陣形変換を開始する。 白犬が歌った。 陣を傾斜させ、幻獣達の側面を駆け抜けた。円を描くように動き始める。 ストライダー兎が歌った。 猫神族が歌った。 神々は声をあげた。 士魂号の中で舞はヘッドマウントディスプレイを下ろしながら歌を歌った。 猫達と舞は同時に我が胸を叩いた。 幻獣が瞬く間に集まり始める。 ブータは独唱した。 −星の輝きを我が胸に。貴方を想う喜びを− ミトリが歌った。 倉木は己が何を歌っているのか、分からなかった。 今や数百ではすまない幻獣が、螺旋の紋を描いて中心に立つ士魂号に突撃を開始した。 神々は声をあげた。 速水は螺旋状に機体を遷移させていた。踊るように舞うように、螺旋の中核へ敵を招待する。スリットから覗かれるその目の輝きは、 士魂号の胸に青い宝石が瞬いたように見えた。 今だ。舞は心の中でつぶやいて引き鉄を引いた。 /*/ 爆発の中で士魂号のガンカメラは戦果をメモリーに記載した。 後に非現実的だと善行が戦果を10分の1に切り捨ててなお、初陣としてはもちろんのこと、単独の戦車があげた戦果としては 空前絶後の戦果である。 それが戦場を駆ける青の神話と伝説のはじまりであった。 /*/ −物語的補項− 1時間後。 「みんな心配したぞ、お前が戦死したかと」 倉木はひさしぶりに聞く人間の声に戸惑ったが、次に我に返り、必死にもみくちゃから逃れて友達を探した。 白犬は背を向けて、もう歩き出していた。頭に載った小さな蜘蛛が、名残惜しげに脚を揺らしていた。 「背筋伸ばセェ! 戦友にぃ」 そして去っていく戦友に敬礼した。未熟なこの少年は、それ以外の礼儀を教わってなかったのだった。 <18回 了>
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