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そして……

 ようやくにして味のれんに到着したののみ達だったが、だからといってすぐ、アップルパイを食べれるわけではなかった。

先客が、いたのである。
店の中には座る場所がないほど人がいた。ほとんどが女子校の生徒ばかりであった。

 変な制服のののみ達をじろじろ見て、ささやく女生徒達。さっきの人たちの仲間よね。
怯えて、舞にしがみつくののみ。舞は平然としている。脅威度で全てを見分ける彼女の目では、かぼちゃか石ぐらいにしか周囲は映っていない。

戸を開ける音。また客かと思い、後ろを振り向く滝川と速水。

袖が外れかけ、顔面が激しく腫れあがった瀬戸口だった。
「うわぁ、一体何が!?」
「やられた……壬生屋だ。なんでよりにもよってああもタイミング良く医務室に出るんだ。あの女いつか人を殺すぞ。多分俺がその被害者だ。駄目だ、 目がかすんできた」
 速水に抱きつく瀬戸口。抱きついていると顔がもとに戻っていく。

美形と可愛い少年の抱擁。 しかもなんか瀬戸口の手の動きはいやらしい。
 女子校の生徒の視線、釘付け。
全然気にしていない舞。腕を組んでやっぱ壬生屋こええよなあと言う滝川。
なんでみんなこちらを見るのか良く分からないののみ。
若宮は天井から吊り下げられる涙滴型宇宙船の模型にあたらないように気を使っている。

「それよりさ、こんな人数いるんじゃ昼休みが終わっちゃうぞ。どうする」
舞は腕を組んだ。冷静に口を開く。
「解決法は3つだ。1.諦めて帰る。2.昼休みの時間制限を破る。3.なんらかの手段で客の回転速度をあげる」

速水は肘鉄で瀬戸口のみぞおちに一撃加えて悶絶させていた。乱れた髪を手で押さえて、舞を見る。
「調理や配膳、後片付けの時間を早くするんだね」
「そうだ」
 舞の瞳を見てうなずく速水。
「分った。……そこまでだ」
 滝川が横を見たその時には、速水は既に厨房に入りふりふりエプロンを身につけていた。
似合うを通り越して周囲が息を呑むような可憐さだった。

店の親父に凛々しく言う。
「手伝います」
親父は、その様を見て笑ったが、次に
「バイト代はびっくりするほど安かばい?」
「僕、倹約は得意なんです」
意味が通るかどうか微妙な発言をし、そして神々の心をも溶かすような優しい笑顔を浮かべると、速水は恐ろしい勢いで手伝い始めた。
「んじゃ、俺も手伝うかね」
 瀬戸口は嬉しそうに立ち直る。決めたら突撃。どこまでも。そんなところまで、そっくりなんてな。
顔を引き締め、ふりふりエプロンをつける。 なんか格好いいふりふりエプロン。

 急に現れた2名の援軍に、座っていた女子校の生徒達が騒ぎだした。

一人の生徒など隣の友人の手を握って力説する始末である。
「き、来てよかったねー! 映ぁ!」
「うん。…YES」
 興奮して言う女生徒に映と呼ばれた少女は、二人のにわかバイトを隠れながら窺うように見て、顔を火照らせた。

「うまいか。ののみ」
「うん」
 舞とののみは並んでアップルパイを食べている。速水と瀬戸口の仕事速度はすさまじい。
舞が嬉しそうにアップルパイを食べるところを、じっと見ている速水。
視線に気づき、顔を赤くして顔を背ける舞。 しょげた子犬のような顔の速水。

新たな乱入者。背の高いオレンジ髪の女が、勢い良く店の玄関の戸を開ける。ずっと物陰から速水を守っていた……と表現しないと犯罪者になってしまう田代だった。 今日はライダーグローブにライダースーツである。
大またもいいところの3歩で親父の前まで歩いて、親父の首根っこを掴む。

「俺を雇え。いいな。……それと! 制服は絶対格好いい奴!」
「は、はあ」
「よし!」

手を離す田代。
速水が、首をかしげた後、思い出して微笑んだ。
「田代、さん……だよね」
 速水の顔は真正面から見れず、顔を赤らめて柱にパンチキックを決める田代。パンチが決まるたびに上から灰が降ってくる。大迷惑である。
「お、おう。あ、いや、アハハ、ちょっとそこを通りかかってな」
「ああ。朝から校門前に置いてあったバイクはお前さんのか。どこの金持ちかと」
 瀬戸口は首を絞められた。そのまま持ち上げられる。ギブ、ギブと言う瀬戸口。

速水の視線に気づいて手を離す田代。
「ち、違うんだ。俺は変な奴がいないか見回りを」 そういう自分が一番怪しい田代。
勢い良く大黒柱を叩く。なにかメキメキと言う音がした。
優しく微笑む速水。まるでののみが笑うかのよう。
「うん。知ってる。……いつかはありがとう」

 田代は、顔を真っ赤にして畜生とか叫んで青く輝く拳で大黒柱をぶち抜いた。

……ぶち抜いた?

 口を開けた味のれん親父。だんだん親父が傾くと言うより、屋根が傾いていく。
「柱、おさえたほうがいいんじゃないかな」速水。
「いや、もう傾いてるような気が」滝川。
「というか逃げろよ」舞とののみの手を引いて走り出す瀬戸口。
若宮はいち早く戸を体当たりで吹き飛ばして脱出口の拡大を図る。
割れるガラスの音。 口を開けた味のれん親父。

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一方その後。校庭。

萌と善行は、同時に顔をあげた。
そして爆発したような音と共に、土煙があがるのを見た。



<続く>