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イントロダクション それは、なにかを待つ心であった。それがいつになるか分かりはしなかったが、自分の力でそのなにかに手を伸ばそうという、心であった。 /*/ その日は何万だかの人が狂ったように掲示板へ書き込みをしていました。 今思えば、なんであそこまで熱狂していたんでしょうねえ。あれも魔法なんですかね。 クリスマス騒ぎかも知れませんね。あれは。あの人がかけた魔法ってのは結局、クリスマスを4日だけずらしただけなのかも知れません。 折りからの強い風によって闇の夜空を切り裂くように月が顔を出すと、地上が映し出された。 魔術師の格好をしていた。 禊をし、髭を剃り、化粧をし、梳り。 技師はつまらなそうに口元をゆるめると、魔術師に言った。 「約束は守った。俺は4日だけ、時をずらした。もう一つも、必ず守られよう」 そして技師は、魔術師を見ないで口を開いた。 「言っておくが、お前の言うことを信じているわけじゃない。ただ……信じていないという理由だけで誰かを不幸にするのなら、我らには固定観念も信念も必要ない」 技師は、部下にそう伝えると、魔術師の方をむいた。 「歌ってこい」 それが友人との永久の別れであった。 二人はもはや二度と逢うことは適わぬであろうことを口に出さず、互いに背を向けた。 石舞台の上に登壇すると、Aは、剣鈴を鳴らした。 踏み鳴らした足元から、光があふれる。 力を溜めれば筋肉が緊張する。派手に剣鈴を持った手を振れば、鈴の音が鳴る。 この世界では誰にも聞こえない歌を歌いながら、Aは天を仰ぎ見た。 歌は、第二世界の力。だが第二世界の力は、第七世界では使えない。 だが、世界最大のワールドタイムゲート、七つの世界を貫くセントラル・ワールドタイムゲートを開けば、第二世界の法則がこの世界に流れ込む。 魔術師は、本当に魔術師として、魔法を使うことが出来たのだ。 そなた達に幸あれと。 幾度いくたび幾世界の隔たりあろうとも、我は娘を愛している。娘の愛する全てを肯定する。娘の許す全てを許す。 ゲートが再び閉じた後、何がおきたのか、私は知らない。 ”夜が暗ければ暗いほど 闇が深ければ深いほど 歌は燦然と輝きだす 二つからなる一つのもの 互いに引き合い 手をふれあう 聖なるかな 聖なるかな それは偉大なる 最強の力 その心は闇を払う銀の剣” 来須は、一人ぼっちになった後で、教室を出た。 夫婦が歌を歌いながら、子供を家に招きいれるという歌だ。 ”夜が暗ければ暗いほど 闇が深ければ深いほど 歌は燦然と輝きだす 二つからなる一つのもの 互いに引き合い 手をふれあう 聖なるかな 聖なるかな それは偉大なる 最強の力 その心は闇を払う銀の剣” 青い輝きが、来須の腕に現われる。 どこからともなく集まってきた猫神族や小神族が、とじめやみに現われて、決して見るはずのない良き神々が、歌を歌い始める。 青い輝きが、雪のように舞い落ちる。地面に落ちて模様を描き始める。 足元を、01ネコリス達が走っていった。世界の接続がはじまったのだ。 この戦いで数は随分減ってしまったけれど、魔術の一つくらいは、まだ使えるはずだった。 ”悲しみが深ければ深いほど 心が痛めば痛むほど 愛は燦然と輝きだす 今なくして未来にあるもの これより生まれ 我を引き継ぐ 聖なるかな 聖なるかな それは偉大なる 最強の力 その涙は闇を払う金の翼” 来須の着る奇妙な服は、奇妙な青い光の風景の中では、ひどく似合っていた。 ”すべてをなくしたときにうまれでる それは無より生じるどこにでもある贈り物 聖なるかな 聖なるかな それは偉大なる 最強の力 時が来たりて喜びをつづる 我は父母なり 全ての理を越えて我は未来に魔法をかける 聖なるかな 聖なるかな それは偉大なる 最強の力 /*/ 誰も空を見上げない時代には、空に穴が開く時がある。 古い伝説は言う。なぜならそう、空だって自分を見て欲しいと思う時があるからだ。 自分を見てもらうために、とりあえず世直しからはじめるのだと。 |
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