10.
手首のスナップを利かせ、剣を左右に振る。これが突きに対する基本的な防御方法だった。
点に対する攻撃である突きに対し、線である剣の払いによってその攻撃をそらすのである。
同時に、上半身を右に左にウェービングさせて、点に対する攻撃である突きをかわす。
「下段に…たとえば脚を狙ったりはしないのか?」
「それは剣で防御することを捨てることです。自殺行為だからやめなさい。」
ちなみに、現代剣道では禁止されているが、日本刀では下段の攻撃が非常に有効である。
レピアー、その剣の切っ先を交差させ、払いながら妹人は相対する年を経た女官に聞いた。
「ここで敵が踏みこんで来たら、どうなるんだ。」
「フェンサー同士の戦いでは、接近戦にはなりえません。突かなければ意味がないものね。後ろに飛びのきなさい。まあ、偶然でもなければ、相手が突けない(攻撃できない)距離に進出する…踏みこむことはありません。」
「そうか…、やはり、若いな。」
「なにがですか。」
「俺も、このフェンシングも、若いと、思いました。」
「さてさて、奇妙な言い方ね。」
涼しい女官の顔をよそに、妹人の顔は汗だくだった。全身に砂袋をつけて、練習をしていたのである。
年を経た女官は、予備動作なしに、つまり腕をいったん下げたりせずに突いてきた。
顔を動かし、ウェービングして突きを避ける妹人。はじめて闘ったときは、これにやられたのだった。予備動作が少ない分威力は小さいが、構造上鎧をつけられない肩首を狙えば、威力的には別段問題なく、奇襲+速度の速さで相手を打ち倒せる。
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