13.
夜
年を経た女官は、ベットでうつ伏せになって、枕に顔をうずめている水の巫女を見て、微笑んだ。
「マイト様は、上手になられましたよ。」
「もうあの人の話はしないで。」
「昨日は、もう話さないでと言っておいて、独り言なら聞く、いいえ、独り言を言ってとか、おっしゃっていたでしょう。」
水の巫女はしばらくじっとしていたが、枕に顔をうずめたまま話した。
泣き顔を見られたくないようだった。
「…昔のことよ。大昔の。もう忘れるくらいの。」
「そう、昨日は大昔。」
「ああ、…なんで、私は水の巫女に生まれたのだろう。」
「水が選んだからですよ。」
「他に人はいるでしょうに。」
「…さあ。水が考えていることは、私には分かりません。それこそ、セーラ様の方がお分かりでしょう。」
「…分からないわ。…たずねても、同じ事を言うばかり。意味はあるよ、と。」
「…では、そうなのでしょう。きっとあなたがここに居て、私がお傍についていて、水の巫女で、水の声が聞こえるのには、意味があるのでしょう。」
「…」
「マイト様が現れたことも、きっと。」
「…もう、だめよ。」
「まだ、わかりません。」
「絶対に駄目なのよ。…だって、私、もう明日には出て行けと言ったんだもの。」
「…」
「…せいせいしたわ。祭には私も出るのよ。あの人が目の前で私のために戦って死んだりしたら…いいえ、たとえ怪我でも、気分悪いもの。」
「それで、よろしいのですか。」
「…眠いわ。…出て行って。 もう、寝るんだから。出て行って。」
「…はい。」
年を経た女官は、ドアを出たところですすり泣く声を聞いて、目をつぶった。
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