逃げまどう人々。
佳々子は、その流れにただ一人逆らって歩くと、迷わず鎖につながれた水の巫女の前にひざまずいた。 水の巫女が顔をあげる。そして見た。
そこにいるのはヒーローでも、誰でもない。自分と同じ、震える少女。
「だいじょうぶですか。」 だがその言葉には、優しさがあった。
「…だいじょうぶ。きっと助けます。」 誰にも負けない優しさがあった。
「…はやく、お逃げなさい。」 「もう、逃げないと決めました。…そう約束したんです。」 「…誰に?」
「私の一番、好きな人に。」 「…奇遇ね。私もそう約束したの。」
水の巫女は、一瞬だけ恐怖 を忘れて微笑むと、泣きそうになって口を開いた。