3.
「昔はね、街に住んでいたのよ。私は女官でね。」
「…そうなんですか。」
夜の砂漠。焚き火を囲みながら、その火を見て、小村 佳々子は火の向うの老婆を見た。
優しく笑う老婆。
「ええ、そう。私は水に仕える者で、まさか砂漠を渡る洞なしに身を落すなんて思いもしなかったわ。それもこれも、黒い髪の少年のせいね。ほほほ、後悔はしてないけれど。」
「…はあ。」
「お嬢さんは、どうして洞なしになったの?」
「わ、私は、その…好きな人を探していて。」
「…あらそれは奇遇ね…そうだ、いいことを思いついたわ。いいことよ。お嬢さん。申し訳無いけれど、私の元主人に会ってくれないかしら。」
「…はい?」
「水が、貰えるわよ。」
「はぁ。」
「いいひとよ。私は、探し物が終るまで、あの人のところには戻れないけれど。」
「…なにを、探しているんですか。」
眼鏡をちょっと指でおして、佳々子は聞いた。
「いい男よ。マイト。私の、娘みたいな元主人の良人。珍しい黒い髪をした…」
佳々子は、心臓が止まったかと思いながら、ばあやさんの言葉に全身全霊を傾けて聞いた。
「お嬢さんに、少し似ているかしら。」
「あ、あのあのもう一度名前を。」
「マイト。勇気と慈悲を兼ね備えた。水の巫女の夫。」
佳々子は、ふっと意識が遠のいた。
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