ガンパレードマーチ・外伝
戻る
進む
トップへ

第一幕

 善行忠孝は、20歳。商船大学三年次、船舶設計を学んでいるときに海兵隊予備士官として任官した。
 この時代の大学では、他国と同じように軍事教練を教えていたが、それを実際に使う機会に恵まれたのである。

 恵まれた…ですか。
やれやれ、できるなら恵まれたくなかったのですがね…
 善行は眼鏡を押して表情を消した。それが彼の生涯の癖であった。
自分が着る真新しい2種軍服を、あまり面白くなさそうに一瞥する。

 広い体育館は既に閑散としはじめて、それぞれの予備士官達は教育係である訓練担当下士官達に連れられて、移動を開始していた。

「以上が説明であります。」
「了解しました。」
 善行は内面を一切隠して頭を下げた。
「善行忠孝です。よろしくお願いします。」
「若宮康光戦士であります。どうぞ、ミスター。」
「僕は任官したつもりだが。」
 ミスターとは、軍の正式呼称ではない。主に正式任官前の士官候補生に使われる言葉であった。まだ軍人でも上司でもないが、いつかそうなることを決められた存在。
「臨時で、仮の、であります。これから半年で、御学友の数は半数以下に絞り込まれると思いますが。」
 意訳、要するに偉そうにされる呼ばわりはない。二分の一で落第させてやる。 善行は心の中で肩をすくめた。
「それは、失礼しました。」
「いえ、よく新品十翼長はそうなさいます。」
 若宮は、少しだけ微笑んだ。善行も、笑う。皮肉な笑い。
「あなたはいくつですか。戦士。」
「はっ。17であります。もう2年程17歳を続けておりますが。」
「年齢固定ですか。」
「恐がる必要はありません。そのうち、軍の大半は我々のような固定型クローンで占められます。」
「いや、僕は珍しい友人を持つことになるなと思っただけだ。」
「なるほど。」
 若宮は、一瞬だけ嬉しそうな、それこそ少年のように笑うと、その笑いを肉食獣の笑いに変えて微笑んだ。

「では、そろそろ授業を始めてもよろしいでしょうか。」
「ああ、たのみます。」
「まず無駄口が多すぎます。次に服装がだらしない。革靴が磨き込まれておりませんし、ネクタイも曲がっております。姿勢が悪く、説明も良く聞いておられないようです。敬語がきちんとしておらず、応答がきちんとできておりません。」
 指を折って数えながら若宮は善行の顔を見た。

「以上、合計で腕立て伏せ200、体操5回。フルマラソン一回の特別教練であります。」
「…すぐやるべきなんだろうな。礼服で。」
「その方が身のためだと思いますが。」
「分かった。」
「急げば夕食に間に合うと思います。」

 善行は、心の中で悪態をついたが、若宮が、彼の教育係が心の中を見透かしていそうで、そのまま悪態をつくのをやめてしまった。


(C)2000SonyComputerEntertainmentInc
戻る
進む
トップへ